「宮田秀明の「経営の設計学」」

“ステルス攻撃機”開発のチーム運営に学ぶ

セクショナリズムを排除するには

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2006年8月25日(金)

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 「第29回アメリカズカップ」の日本チームが使うレース艇の技術開発を引き受けたのは1993年6月のことだ。大会の開催はその1年半後の95年1月。レース艇は2艇開発したのだが、第1船の建造を開始するまで残り3カ月、少し日程に余裕がある第2船でも1年しかなかった。

 簡単に言えば、遅れに遅れてしまったレース艇の技術開発を緊急援助しなければならなくなったのである。いろいろな船の設計の実績は誰よりも豊富だったし、8年前にアメリカズカップの米国チームの設計を手伝ったことはある。しかし、あくまでそれは部分的なものに過ぎなかった。ヨットの設計では、私は素人に近かったのだ。しかも短期間だから大変難しい仕事になることが予想できた。

 一方、日本中を見回しても、短期間でレース艇開発の仕事ができそうな人材は私の他にいないことも明らかだった。だから、私にこの仕事が回ってきたのだ。幸いだったのは、予算だけはそれなりに用意されていたということである。

 そうして「アメリカズカップ技術開発委員会」が発足した。日本で最もふさわしい人材を集めて機能型のチームをつくり上げた。セールは大学でその研究を専門にする先生をリーダーに、気象担当は気象庁の専門家にと、各担当にその道のスペシャリストを置いた人選で万全の体制を整えた。

 だが、こうしてつくった技術開発チームは、残念ながら結局ほとんど機能しなかった。それぞれのチームが与えられた仕事をこなして答えを出すのだが、内容に何も創造性がない。

 「宿題をこなして、私の責任は果たしました。問題ないでしょう」

という態度なのだ。

ツリー型の組織構造でうまくいかず

 “そこそこの解”は世界一を目指す最先端の世界では、ほとんど紙クズ同然なのに、当たり障りのない答えしか出てこない。本当に創造的な活動を行っているのは、私の周りにいた若いスタッフだけだった。マスメディアには強がって見せていたのだが、内実はボロボロで結果は惨めな敗北だった。

 この経験で分かったのは、最先端の技術開発では機能型のチーム構造が全くフィットしないことである。ここで言う機能型とは、いわゆるツリー型のチーム構造を指す。企業で言えば、“部課制”に相当する。うまくいかない理由は、一種のセクショナリズムが充満するからだ。それぞれの部門の担当者が、部門の仲間内だけで自己満足して終わってしまっていたのである。

 第29回の大会が終わった95年の夏。再び第30回アメリカズカップに挑戦することが決まった。その時は前回の轍を踏まぬよう、新しいチーム構造を取ることにした。米国の先進軍用機の開発に使われる「スカンクワークス」である。

 スカンクワークスは最初、米ロッキードが通称として使った。ステルス攻撃機の開発などが有名で、航空産業の最先端を担っているチーム運営手法だ。能力差が少ない「粒揃い」のメンバーを10人〜15人集めてフラットなチームを構成し、1人のプロジェクトマネジャーがすべてを統括する。少数精鋭のチームがすべての創造的な活動の中心になる。

 階層構造を設けないため、コミュニケーションが取りやすく、プロジェクトの目標と全体像を全員が共有しやすい。日本の自動車メーカーは「主査制」という形態のプロジェクトチームを編成することが多いが、これもスカンクワークス型のチーム構造に近い。

 レース艇の開発では、若手中心の10人のスカンクワークスを基本構成とした。このメンバーの人選では、次の2つの条件を課した。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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