「中小企業は特許を取れ!」とよく言われる。
しかし、どうもその手の議論をする学者や、ジャーナリストには特許に関して、誤解が多いように思う。
まず第1に、特許は決してタダではない。
特許申請料自体はそれほど高いものではないが、弁理士に特許の申請書を書いてもらう費用は非常に高い。むろん自分で書けばタダだが、特許の申請に使用される言葉は、意味が曖昧にならないよう、言葉の使い方に特許申請独特の特殊ルールがあり、一般の文書と表現の仕方が違っているので、素人には難しい。また「権利の範囲」の設定の仕方で、特許が有効になったり、無意味になったりするから、弁理士に任せる方が得な場合が多い。この弁理士費用が高い。
海外の特許も取れば維持費は1000万円をオーバー
次に特許が成立しても審査請求をしなければ、侵害者に対して対抗力を持たない。この審査請求の費用が馬鹿にならない。
さらにその後、毎年特許維持費用がかかる。特許成立後、最初の3年間は毎年約2万円だ。その次の3年間(4年目から6年目)は毎年約3万円必要だ。その次の3年間は6万円、その次の3年間はさらにその倍、というふうに倍倍で増えてゆく。日本の場合権利範囲が狭いので、権利を保護するためにはいくつかの応用特許、周辺特許も押さえるのが普通だから、毎年何十万円が必要になる。
さらに海外の特許も取るとなれば、(今なら、最低でも米独仏中韓くらいは必要だろう…)軽く千万円単位の話になる。
多くの中小企業にとって、そのような費用は負担が大きすぎるし、後に述べるような理由で、仮に侵害されても裁判で勝利をするのは非常に難しいし、面倒くさいから、結局特許は「持ち腐れ」になる。
だから、そもそも取らない、あるいは、特許を申請しても審査請求もせずに放置する。(特許を申請しておけば、もし第三者が同じ技術で特許を申請した時に、元々その技術を持っていたことを証明する証拠になる。つまり防衛的な意味で申請する)
相手の工場に立ち入って特許侵害を調べるのは困難
第2に、「特許料をわざわざ払いにいく人は稀だ」、ということだ。
自分のアイデアが他人の特許に抵触すると分かったら、次は「何とかこの特許から逃げる工夫はないかな」と考えるのが常識だ。そしてちょっとした抜け道や欠陥を見つけて、「元の特許に抵触しない」という理屈づけをする。どうやっても逃げられない場合もあるが、その時には「まあ、文句を言ってきてから考えよう」と思う。それを「けしからん」と思う人は、研究開発をやった経験のない人だ。研究の現場では当然の発想だ。
従って特許は、侵害された時に「貴社のXXは、私の特許権を侵害している。特許料を払え」とガンガン文句を言って初めて効力を発揮する。
ところが特許を侵害しているかどうかを調べるのが非常に大変だ。製品特許であればまだマシで、「相手の製品を買ってきて分解する」という手段があるのだが、侵害した製品が500円、1000円ならともかく、何千万円、何億円という値段になってくると、相手の製品を買うことすら容易ではない。もし分解して「侵害していない」ことが分かったら、全く無駄になってしまうのだ。
製法特許であればさらにやっかいで、製造工程を調べてみなければ分からない。相手の工場に立ち入って、製造工程を調べることなどできようはずもない。
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