「宮田秀明の「経営の設計学」」

キャンパスから学生の姿が消える異様

加速する青田買いが人材育成を阻害する

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2006年12月8日(金)

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 フランスでは、高等専門教育機関のグランゼコールや大学で、日本の修士論文や卒業論文に相当する演習を学外で行わせることがある。この演習は、海外になることもあって、日本の大学や企業も時々そうした学生たちを受け入れている。

 3年前に私の研究室にも、コリシュ君という学生が半年間滞在した。彼は、フランスのナント工科大学の大学院生で、ヨット部で活躍していた。ヨットの科学的な(コンピューター・シミュレーションによる)設計法を研究テーマにしたので、私の研究室にやって来たのだ。大学院卒業間近の彼はまだ就職が決まっていなかった。卒業してから探すのだという。フランスでは、それがごく普通のことらしい。帰国してから、ヨットのセールメーカーを志望したのだが、結局、風力発電関連の企業に就職した。

駆け引きと騙し合いに未来はあるか

 日本ではこの10年ほど、学生が就職活動を始める時期が早まっていて、今の時期はちょうど学生にとって就職活動の真っただ中である。秋になると就職戦線が動き出し、翌年の8月頃まで1年間続くのだ。

 当然、主役は卒業を控えた学部の4年生や修士課程の2年生ではない。学部の3年生と修士課程の1年生である。つまり大学の専門課程、または大学院に入学して半年経つと、卒業までにまだ1年半もあるのに就職活動がスタートする。最近、理系の学部では大学院進学率が高いので、学部生の就職活動はそれほどは目立たないが、秋口から初冬に向かう時期くらいから、大学院の講義室や研究室では異様さが日常になる。

 多くの修士課程1年生は夏以降、大学のキャンパスから姿を消す。研究室のミーティングはさぼるし、講義の出席者は急減する。出席している修士1年生も、ほとんどがリクルートスーツ姿だ。彼らはまだ、大学院の勉強に着手したばかりで、大学院生としては、まだ未熟なままなのにである。大学院の修士課程は2年間だから、ほぼ半分を大学院の勉強ではなく、就職のために費やすことになる。

 現在、かなりの企業が自由応募で新卒採用を募集する。自由と言うと聞こえがいいが、学生から話を聞くと内容は“駆け引き”に“騙し合い”、そして“リスクマネジメント”である。ほぼ1年間の長きにわたって企業の採用担当者と学生がこんなことに無駄にエネルギーを消耗し続けるのだ。かなり病んでいると言っていいのではないか。かつて、工学部をはじめとする理系学部では、企業経営者と指導教官、学生の信頼関係で就職先を決めることが多かった。早ければ1週間、長くても1カ月で就職活動は完了する。こうした就職パターンも今では珍しく少数派になった。もちろん、これが就職活動の最良の姿かどうかは議論のあるところと思うが、今でも学生の満足度は高い。延々と続く企業の採用担当者との駆け引きに、学生たちは辟易しているのだ。

 大切な勉学の時間を就職活動に奪われることによる損害は大きい。平均的には、就職活動のために少なくとも半年間にわたって勉強量が半分になる。これは、社会的損失と言ってもいいだろう。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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