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海難事故の悲劇に設計力の欠如を見た

分析力だけでは経営も設計もできない

  • 宮田 秀明

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2006年12月15日(金)

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 今年4月に鹿児島県・佐多岬沖で起きた水中翼船トッピーの事故を覚えているだろうか。この船は、米国の航空機メーカー、ボーイングが技術開発した高速船で、十数年前から日本メーカーがライセンス生産している。時速80キロという高速で海上を飛ぶように走る。事故は、航行中に何物かに衝突して急停止し、乗客乗員112人の負傷者を出したというものだった。

 この事故では、国の事故調査委員会が設けられて、事故原因の調査解析が行われた。当初、鯨にぶつかったとの見方があったが、調査委員会では結局、水面下に隠れた流木に衝突したという結論が出された。後日、調査委員会の報告書を読んで驚いた。不十分と言うか、論理的に理解できないことが少なくなかったからだ。

稚拙な事故報告書への疑念

 例えば、多数の負傷者を出す急停止の原因となった失速の技術分析である。失速は、“流木”がぶつかった衝撃で船底に取り付けてある水中翼が後方に跳ね上がったことで生じた。だが、事故報告書にある水中翼の跳ね上がりから失速・落下までの過程の技術的な記述は教科書レベルの机上の論理で構成されており、とても実践的なものとは言いにくい。技術的な詳細は割愛するが、もしかすると不勉強な技術者が調査を担当していて、報告書全体が信頼性に欠けるのではないか、という疑念が頭に浮かんだ。

 もともとこの水中翼船は、米国海軍が14年の歳月と巨費を投じて開発したもので、日本企業はライセンス生産しているだけだ。今の日本では、複雑なシステムである高速船を設計できる技術者は私を含めてほんの一握りになってしまった。高速船の中でも水中翼船は難しく、ライセンス生産している企業の技術者であっても、設計図通りに製造しているだけで技術の本質を知らない可能性が高い。だから、事故原因の解析がいいかげんになってもおかしくないのだ。

 仮に事故原因の本質が解明なされていないとすると、今後も同じような事故がまた起きかねない。そもそも、この水中翼船をリスクが高い外洋航路で積極的に使っているのは日本だけということもあり、利用者や船会社などの関係者の間には不安が残る結末なのではないだろうか。

 現状の製品と同じもの、あるいは改良版を設計する能力も広義には設計力と言えなくもないが、本当の設計力とは革新的な新製品を設計する能力である。高速船に代表される特殊な船舶では、日本の設計力はこの15年間で急速に低下して、EU(欧州連合)やオーストラリア、米国、韓国、中国の後塵を拝するようになってしまった。

 1990年頃までは、日本の造船会社も激しい技術競争の真っただ中にいた。にもかかわらず、稚拙な経営の帰結で高速船の設計力を捨ててしまったのである。今では通常の商船でも、設計力はEUと韓国の方が日本よりも上だ。もうすぐ中国にも抜かれるだろう。造船各社は現在受注が増えており、2~3年後に大きな利益を出しそうだが、これは需給バランスの波の結果にしか過ぎない。久しぶりの大幅増益を喜んでいる頃には、本当の設計力を完全に失っているので、衰退への道がもっとはっきり見えるだろう。

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