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洋服売り場が“萌えて”います

マネキンに見る「日本的記号化」の強み

2007年4月9日(月)

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 マネキンが大変なことになっています。

 そう、あの洋服売り場に突っ立っている等身大の人形のことです。まず、何はともあれ、この写真を見てください。

写真1

平和マネキンの子供服用マネキン「きゃらもあ2」

 「えっ? 何? どこがおかしいの?」。そう思ったあなたは、新しい感性の持ち主かもしれません。よく見てください。この子供マネキンたち、アニメ顔なのです。その目はあり得ないくらいに巨大で、瞳には、手塚治虫さんの発明以来、少女マンガの定番になったキラキラ星が輝いています。日本のマンガ史に残る由緒正しい瞳の系譜を持った顔が、いつの間にか3次元になって、子供服売り場に進出しているのです。もともとは、現実の世界を模写したはずのマンガがリアルの世界に舞い戻ってきました。

 ひと頃、バーチャルリアリティー(仮想現実)という技術用語が流行したことがあります。コンピューターグラフィックスで作り込まれた仮想空間の世界に没入させる、超リアル系のテレビゲームのような技術が代表例でしょう。アニメ顔のマネキンは、逆に仮想空間から現実世界へと飛び出してきた現象と言えます。

写真2

瞳には、きらきら星が入っている

 写真のアニメ顔マネキン「きゃらもあ2」を開発したのは、平和マネキンというマネキン業界では比較的新興の企業です。今では複数のマネキンメーカーが手がけるようになったアニメ顔マネキンですが、初号機は今から5年前、2002年頃に埼玉県川口市にある平和マネキンのデザイン工房で生まれました。

 日本のマネキン業が産声を上げたのは1920年代。海外からの輸入マネキンを修繕するビジネスから始まりました。実は、そこから日本のマネキンは独自の進化を遂げます。写実的に人体を模す西洋のマネキンとは一線を画し、日本人が最も美しいと感じるように人体、特に顔をデフォルメし、記号化を追求してきたのです。その延長線上にあるのがアニメ顔のマネキンです。今回は、マネキンを例に、日本のものづくりに隠れた「記号化」という強みについて論じてみたいと思います。

世相を敏感に反映するマネキン

 恐らく、この子供マネキンを見て、とてもよく似た別の現象を思い浮かべた方は多いでしょう。そうです。フィギュアです。

 萌えるアキバ系の青少年の世界では、マンガの主人公が2次元空間から飛び出して、お人形化しています。同じ人形でも従来からある、リカちゃん人形やサンダーバード人形などと決定的に違う点は、マンガやアニメの2次元空間で暮らしていたキャラクターを立体化することにあります。

 ご存じのように、アニメ顔マネキンと同じような等身大フィギュアも存在します。食玩ブームなどもあり、最近でこそ少しずつ市民権を得てきた感はありますが、フィギュアのキャラクターたちはおおむね美少女系で、ちょっぴりエッチな姿形をしていることが多いため、どちらかといえば眉をひそめられる際物的な扱いを受けています。しかし、同じアニメ顔でも、純真無垢に子供服売り場でモデル立ちしているとPTAもオーケーということになるわけです。

 それでは、マネキンとフィギュアの決定的な違いとは何でしょうか。それは、愛玩の対象となる個人の持ち物か、産業用か、ということになります。フィギュアでは衣服を身体に合わせるのですが、マネキンは既製服を完璧に着こなすことが大前提です。従って、人体の骨格構造から大きくは逸脱できないという制約があります。

写真3

マネキンは世相を反映する。安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんのイメージから生まれた渋谷ギャル風のマネキン「ラブリー」

 そもそもマネキンとは、空気のような存在。普段から目にしているにもかかわらず、いざ思い出してみようとすると顔は浮かんできません。身に着けた衣装が売れることが目的なので、マネキン自体が目立ってはならないのです。それでも、店頭での存在感は求められるという、とても微妙なバランスの上に成り立っている人形がマネキンというわけです。リカちゃんを個人用の携帯電話とすれば、マネキンはオフィスで働くコピー機や、自動車工場で動き回る溶接ロボットのようなものと言えるでしょう。

 言うまでもなく、マネキンは、世相を敏感に反映する人形です。アニメ顔のマネキンが登場した2002年頃は、アキバ系の萌え文化がブレークし始めた時期と重なります。日本発のアニメや漫画が世界的に評価され、ジャパンクールと呼ばれ始めた頃です。平和マネキンが、アニメ顔のマネキンを開発した直接のキッカケは、とある有名子供服メーカーからの依頼だったそうです。

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「洋服売り場が“萌えて”います」の著者

川口 盛之助

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)

盛之助 代表取締役社長

戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにてアソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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