「技術者と“女神”はかく出逢う」

「冷凍の寿司」を実現! 道産子の挑戦は続く
〜ふうどりーむず・猿渡 肇

(第1回「ものづくり日本大賞」特別賞受賞)

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2007年4月17日(火)

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 小樽の名物である寿司を冷凍にし、日本のみならず世界に「出前」することを可能にした、ふうどりーむずの「小樽・愛のすし」。

 冷凍の寿司? 疑問と好奇心を抱きつつ、小樽市郊外にある同社の本社兼工場を訪ねた。「日本人には、冷凍=まずいという固定観念がある。だから発売当初は苦労した」と、猿渡肇さんはこちらの胸中を見透かしたように話す。

 何はともあれ、実物をいただいてみた。結論を言えば、「冷凍だと言われなければ、そうとは絶対に分からない」水準。マグロやサーモン、ホタテはしっとり、イカやタコには相応の歯ごたえがあり、イクラはプチプチと弾ける。酢飯もいいあんばいである。

社運を賭けた“第2創業”

猿渡 肇氏。独自技術で「小樽・愛のすし」を開発したことで、一躍全国に名を知られるようになった (写真:押山智良)

猿渡 肇氏。独自技術で「小樽・愛のすし」を開発したことで、一躍全国に名を知られるようになった (写真:押山智良)

 業界では「冷凍寿司こそ究極の冷凍食品」だと言われている。大手メーカーも含めて、過去に数多くの企業がチャレンジしてきたものの、失敗。この「愛のすし」は、家庭でも手軽に食べられる商品として、一般市場に初めて流通されたものである。

 困難にあえてチャレンジしたのは、「他にない技術を開発する以外に、生き残る道がなかった」からだという。1990年代半ば。折からのバブル経済崩壊もあって、猿渡さんが経営していた飲食店、水産加工・地ビール製造の会社は経営危機に直面する。局面を打開する新商品の開発を迫られていた中、思案の末にたどり着いたのが冷凍寿司。キーワードは、地元「小樽」だった。

 テレビのグルメ番組にもしばしば登場するように、小樽は“寿司のまち”。人口比で我が国最高と言われる百数十軒の寿司屋がひしめく。なのに、潰れたという話はあまり聞かない。共栄できるのは、わざわざ遠方からも客がやってくるからである。ならば、この小樽ブランドを日本中に売ったらどうだろう…猿渡さんはそう考えた。何より、同社には水産加工で培った冷凍技術があった。

 しかし、従来技術の延長線上で商品化できるほど、冷凍寿司の開発は甘くはなかった。マイナス80度近い低温を可能にする、自社最強の窒素凍結機で握り寿司を冷凍しても、解凍すればシャリはボロボロ、魚介からはドリップ(汁)が出て、とても食べられたものではない。

ここ、本社研究室での努力が、画期的な商品を生み出した (写真:押山智良)

ここ、本社研究室での努力が、画期的な商品を生み出した (写真:押山智良)

 加えて、資金の枯渇が足を引っ張った。独自の冷凍システムが必要なことは分かったのだが、試作機でさえ数百万円かかる。もとより経営危機にあったのである。資金力が続かず、研究開発は何度も頓挫の憂き目に遭う。

 しかし、諦めなかった。基盤事業を懸命に続け、少しでも余裕ができると「よし、またやるか」と、猿渡さんは社員に声をかけ続けた。専門の研究員を雇い入れる余裕などない。開発は、生産部門の担当者たちと「ああでもない、こうでもない」と場数を踏みながら、1歩ずつ階段を上がっていくように進められた。

 結局、研究開発に4年、商品化にさらに2年を費やす。「愛のすし」が発売されたのは1999年のことだった。

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著者プロフィール

南山武志(みなみやま・たけし)

フリーライター。1959年、長野県生まれ。1984年、早稲田大学法学部卒業。業界紙記者、株式雑誌編集者などを経て、フリーランスとなる。現在は、政治・経済・社会・芸能・スポーツなど、幅広いフィールドでライター活動を展開。



このコラムについて

技術者と“女神”はかく出逢う

日本の強さの原点である「ものづくり」を支えている名人たち。彼らが開発した技術や製品は、日本が誇る大きな財産である。このコラムでは、彼らが困難な開発に立ち向かう中で、“幸運の女神”と出逢う経緯を紹介していく。自らを誇らず、どこまでも真摯に開発に取り組むその姿勢を、過度に演出せずお伝えしたい。その中には、我々の未来に繋がる手がかりがきっとある。

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