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東芝の創業者が示した本当の技術力

カラクリ人形に見る「日本的技術観」の秀逸さ

2007年5月14日(月)

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写真1

「茶酌娘」と呼ばれる茶運び人形。普通の茶運び人形は1人の客だけに茶をふるまうが、この人形は複数の客に茶を運ぶことができる。からくり儀右衛門の作 (写真:日本からくり研究会)

 「無礼な、そこへ直れ!」

 額に青筋を立てた加賀の殿様が刀に手を掛けました。手打ちにしようとしたのは、目の前にある小さな人形。お盆に載せたお茶を持ってゆるゆると前進し、お客さんが湯飲みを取り上げると、くるっときびすを返して戻る、あのカラクリ人形です。正式には「茶運び人形」と言います。

 カラクリ人形は、江戸時代の人たちには魔術のように映ったようです。おもてなしの一興としてお座敷に出したところ、殿様の側まで近づいた人形が首をもち上げてキッとにらみつけたように見えたということで、手打ち騒ぎになりました。こうした逸話が残っているのは、それくらいにリアルに見えたということの証左でしょう。

 これまでこのコラムでは、バイクや携帯電話、マネキンといった現代の技術から「ニッポン的ものづくり」の強みを探ってきました。今回は、いつもと少し趣向を変えて、日本が誇るべきプレ近代の優れた技術にフォーカスしたいと思います。

 話を聞いたのは、日本の近代産業に関わる様々な機器を研究、収集、修復、展示することを目的に立ち上げられた「日本からくり研究会」という団体です。カラクリと言うと人形のイメージが強いのですが、江戸時代には「機関」「機巧」「機」「絡操」などの漢字を、すべて“カラクリ”と読んだそうで、時計や鉄砲なども含めた機械の総称だったということです。

 実は、このカラクリ技術には、現代のものづくりが再認識すべき“技術観”が多く隠れています。その設計思想の奥深さ、精緻な工学技術、演出家としてのセンスからは、これから日本が追求すべき、ものづくりの姿が見えてくるのです。

西洋の機械技術を凌駕した日本のカラクリ

 「文字書き人形」という究極のカラクリをご存じでしょうか。幕末から明治初期に大活躍した“からくり儀右衛門”こと、田中久重さんが1820年代に作り上げた傑作品です。田中さんは、東芝の創業者の1人でもあります。1875年に東京・銀座に創設した田中製造所が、今の東芝のオリジンとなりました。

写真2

文字書き人形。からくり儀右衛門の作 (写真:日本からくり研究会)

 文字書き人形は、その名の通り、筆を取って墨に浸けた後に紙に文字を書く人形です。それも「松」「竹」「梅」「寿」の4文字を書き分けることができます。

 当時、この人形のライバル的存在としては、工業先進国・英国から清の皇帝に献上された文字を書くオートマタがありました。オートマタは、日本で多くのカラクリ人形が作られた江戸後期から明治初期と偶然にもほとんど同じ時期に、西洋の時計職人やオルゴール職人たちが、機械技術を駆使して作り上げた自動人形です。その1種である文字を書くオートマタと比較すると、からくり儀右衛門が作った文字書き人形の技術が、いかに先進的であったかが分かります。

 文字書きオートマタは、紙にペンを押し当てて文字を書くのですが、筆書きにはペン書きよりもはるかに高い制御技術が求められます。筆書きは、筆圧で線の太さが大きく変わることに加えて、筆先が宙に浮く瞬間が多いからです。みごとな3次元動作をこなして、最後のハネやカスレまで再現できている文字書き人形は驚愕に値します。

 こうした西洋を凌駕する制御技術もすごいのですが、本当に注目すべき点は別にあります。それは、人形の所作です。文字書き人形の動作を観察すると、例えば「寿」の字を書き上げ、最後の点を書く動きとぴったり同期して、ほんの少し小首をかしげて「ウン」とうなずくのが分かります。その動きは「よしうまく書けたゾ」と言っているように見えるのです。

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「東芝の創業者が示した本当の技術力」の著者

川口 盛之助

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)

盛之助 代表取締役社長

戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにてアソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師