• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

MACの筆は“職人が量産”。化粧筆で世界シェア6割

~白鳳堂・高本和男(※)(第1回「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞受賞)

  • 岡部 恵

バックナンバー

2007年5月15日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

これまでにない肌触り、使い心地を発揮する化粧筆の数々。日米欧各国で着実にファンが増え続けている

これまでにない肌触り、使い心地を発揮する化粧筆の数々。日米欧各国で着実にファンが増え続けている (写真:刑部友康)

 世界50カ国以上で愛されているブランド「MAC」。コンピュータやハンバーガーではない。プロのメイクアップアーティストから一般ユーザーまで、幅広いファンを持つカナダの化粧品会社・MAC (メイクアップアートコスメティックス)のことである。

 このMAC をはじめ、世界の有名化粧品会社約70社に、化粧筆をOEM供給しているのが、1974年に高本和男さんが創業した白鳳堂だ。現在、広島県熊野町にある自社工場だけで月産約50万本。実に、世界シェアの約60%を占める化粧筆を生産している。

(※高本氏の「高」の漢字は“はしご高”ですが、外字のため表示できない環境があり得ます。このため記事中では「高」で表記させていただきます。ご了承下さい)



機械化ナシの量産、カギは80種類超の工程細分化と道具化

「毛先を切ってそろえるのはブラシ、うちのは筆」との言葉どおり、白鳳堂の化粧筆はすべて、毛先を切らずにそろえるという徹底した手作業でつくられている。要となるのは、熟練された技。それだけに、そのマンパワーには限界があるが、高本さんは工程を機械化をせず、“均一な品質で多種な化粧筆を量産する”という難題をクリアしたのである。

工程を80種類超に細分化することで、手作業による量産を可能にした

工程を80種類超に細分化することで、手作業による量産を可能にした (写真:加納拓也)

かみそりを当てながら指先の感触で品質の劣る毛を取り除く伝統技術。全工程で繰り返されることで、高品質な化粧筆が生まれる

かみそりを当てながら指先の感触で品質の劣る毛を取り除く伝統技術。全工程で繰り返されることで、高品質な化粧筆が生まれる (写真:刑部友康)

 応用したのは、伝統筆づくりの技術。伝統筆をつくるには、通常、ほとんどの工程を1人の職人が担うが、それだけに量産はのぞめない。だが高本さんは、その伝統筆の製作工程を80種類以上に細分化することで、各工程ごとの職人技をキープし、化粧筆を均一の品質で量産することに成功した。

 ぞれぞれの工程での技術をさらに高めるため、工程の随所では高本さんのアイデアで生まれた数々の手づくり道具が用いられている。たとえば、毛先を球面にそろえていく整穂の工程では「コマ」と呼ぶ木の筒が使われているが、これもそんな手づくり道具のひとつ。

 さらに、精毛という作業に工夫を施した。これは、指先の感触ひとつで逆毛やすれ毛などを選別して取り除く高度な熟練技だが、白鳳堂の化粧筆はこれをすべての工程で繰り返し行っている。完成時には始めに要した毛の約3~5割が捨てられるほどで、それだけに妥協のない高品質な化粧筆ができあがる。

疑問と危機感から始まった闘い

 今や世界中で愛用され、白鳳堂の名はプロだけでなく一般的にも広く知られている。しかし、ここに至るまでの道のりは厳しいものだった。

 高本さんは代々続く伝統筆職人の家に生まれ育ったが、この世界に入ったのは23歳と遅い。家業は兄が継いだので、大学卒業後は中学生から夢だったという建築会社にいったん就職したからだ。ところが1年後、兄から忙しいので手伝ってほしいとの要請があり、実家へ戻ることに。

 当時、伝統筆の需要は減る一方。実家では、卸業者の下請けとして化粧パレットにセットする筆を主に生産していた。が、そこで求められるのは納期優先、大量生産、そして価格競争…。本来求められるべき品質は、徐々に二の次へとなっていった。

 「筆は道具だ、品質が何より大事なはずだ」。疑問を抱いた高本さんは兄に提言するが、納期に追われている状況下では聞き入れてもらえない。このままでは伝統技術が廃れてしまう。化粧パレットのおまけではなく、高品質な道具としての化粧筆で勝負したい。意を決し、高本さんが独立したのは1974年のことだった。

量より質をあきらめず、下請け脱皮に苦闘

 それからが闘いの連続となる。高本さんは志を貫いて、陶磁器や人形の面を描く伝統筆と、その技術を生かした高品質の化粧筆をつくっていたが、化粧業界の流通構造は相変わらずで、求められるのは質より量。

 加えて、収入や労働時間の不安定さも問題だった。卸業者から一度に大量注文される時もあれば、極端に暇な月もある。従業員への責任を感じていた。価格競争も厳しく、資金繰りも毎月苦しい。そんな中、高本さんが決断したのは、化粧品会社に直接取引を交渉する道だった。

 この頃、下請けが大企業に直談判する、自社ブランドを立ち上げるなどといった話は前代未聞のこと。試作品を持って化粧品会社へ出向いても、当然のことながら、ほとんどが門前払い。やっとの思いで担当者に会えても、品質の良さは認めてくれるものの、複雑かつ固定化された流通構造に阻まれる。「まずは卸しを通せ」「どうせ量産は無理だろう」と、結局相手にされないのである。

自社ブランド製品「S100シリーズ」。日本の伝統色である朱が目にも美しい。グッドデザイン賞を受賞

自社ブランド製品「S100シリーズ」。日本の伝統色である朱が目にも美しい。グッドデザイン賞を受賞 (写真:刑部友康)

 それでもあきらめず、1982年からは自らの手で自社ブランドの化粧筆をつくり、販売も開始した。専門誌で調べては、プロのメイクアップアーティストを訪ね、直談判を繰り返す。中には、すでに高本さんの筆を愛用しているプロもいて、励みになる嬉しい出会いもあったという。しかし、どんなに品質の素晴らしさが認められても、その存在は一部のプロだけが知るもので、会社経営は苦しいままだった。

 ある日、高本さんは新幹線の中で、ニューヨークで活躍している日本人メイクアップアーティストの記事を見つける。日本の狭い業界でいくら直談判しても限界がある、それならアメリカだと考えた高本さんは、ちょうど留学中だった甥に記事の人物を探し出すよう依頼する。そして居場所がわかると、さっそく自慢の筆を携えて渡米した。

コメント2

「技術者と“女神”はかく出逢う」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

環境の変化にきちんと対応して、本来提供すべき信頼されるサービスを持続できる環境を作り出さなければならない。

ヤマトホールディングス社長 山内 雅喜氏