「河岡徳彦の「サイドウィンドウ小景」」

アナログ世代が伝えるデザインテクニック

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2007年5月23日(水)

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 最初からデジタルで始めさせるのがいいのか、それともアナログのスケッチからじっくりと覚えさせるのがいいのか。自動車メーカーでデザイナーを育てる際に、デジタルとアナログのどちらから身につけさせるべきなのか、今なお様々な議論があります。

 私たちの世代が仕事をしていた当時はアナログ全盛時代でしたが、定年間近の頃にデジタル化の大波が来て、デザインの環境は一気に変革されました。しかし私は、アナログ作業の代表である手描きスケッチの有効性が減ることはないと考えています。デザインの課題は、「いかに発想するか」にあります。発想のツールとしていまだにアナログの力は有効です。アナログだと発想のプロセスが見えるし、十人十色のデザイナーの「感性」をすばやく表現して伝えるのに適しています。

自然現象が生み出す様々な曲線

 アナログ世代の私は、先輩からいくつかの“技”を教わりました。それは自然界の現象や自然物が生みだしたモノや形を利用して、新たな造形を試みるプロセスです。いくつかご紹介しましょう。

 例えば富士山は誰でも知っている、日本の美しいシンボルです。なだらかに曲線を描く富士山の稜線は、日本人ならばすぐに思い浮かべられるはずです。富嶽三十六景の葛飾北斎に教わらなくとも、大きな曲線を使って富士山の形を描き表すことができるでしょう。

 富士山の稜線に限らず、世の中には自然現象が生み出す曲線がたくさんあります。例えばロープの両端を持って垂らした時にできる曲線(懸垂曲線)がそれです。また、1枚の布に水をたっぷりとひたし、布の両端を引っぱりますと、中央部分が水の重みで自然と垂れ下がります。この垂れ下がった形も曲線を描きます。

 こうした自然現象が生み出す形をデザインに利用するのです。実際に和船や帆船を造る際には、横から見た船底の曲線を表現するのに活用されています。波を切る船首、追い波を受ける船尾をつなぐのに適した曲線が、布に水を浸した時にできる懸垂曲線なのです。この曲線を確かめるには、ぜひお風呂でトライしてみてください。

角を丸めるアナログの秘技

 もう1つのアナログの技をご紹介しましょう。シャープで活躍された木全賢氏が書いた本『デザインにひそむ<美しさ>の法則』の中に、「ハマグリ締め」という言葉が出てきます。私は自動車業界でこの言葉は聞いたことがなかったので、とても新鮮でした。

 ハマグリ締めとは立体をデザインする際に、2つの面がぶつかってできる角(稜線)の形状を調整する手法です。立体の形を引き締めながら、それでいて柔らかく見せるために、あらかじめ角の周辺の面を削り取っておく処理のことです。角の断面形状がなんとなくハマグリの殻の形に似ているので、そう呼ばれるそうです。木全氏は一例として、アップルのコンピューター「マッキントッシュ」のキーボードを挙げています。手前の角部分の処理で、ハマグリ締めが行われているのです。

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著者プロフィール

河岡 徳彦(かわおか・のりひこ)

河岡 徳彦

静岡文化芸術大学 デザイン学部生産造形学科 教授。1966年多摩美術大学卒業。東洋工業、アダムオペルAG(GM)を経て、マツダ・デザイン本部長、スズキ・商品企画統括部デザイン部長を歴任。海外で活躍する日本人カーデザイナーの先駆者。マツダ「デミオ」、「フェスティバ」、スズキ「スウィフト」などのヒット車を世に送り出した。著書に「クルマの時代とかたち」がある。



このコラムについて

河岡徳彦の「サイドウィンドウ小景」

国内、海外の自動車メーカーでデザイナーとして活躍し、数々のヒット車を生み出した河岡徳彦氏による連載コラム。自動車業界の移り変わりを中から見続け、メーカーをまたがって国内外で幅広い交友関係を築いてきた経験をもとに、デザイン、マーケティング、技術など幅広いテーマで自動車について語る。

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