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属人的経営には、もう頼れない

異分野を結びつけるアナロジーの発想

  • 宮田 秀明

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2007年5月25日(金)

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 1974年から3年間、石川島播磨重工業(IHI)の船型を設計する部署で貴重な経験をして、船が航行する時に作る波にはたくさんの謎が残されていることが分かった。そこで得た知見を基に、東京大学の教員として転職した後、半分は上司に内緒でたくさんの実験を行った。その結果、明らかになったのは、船の作る波には非線形なものがあり、船が進む時の抵抗として中心的な役割を果たしているということだった。これが、このコラムでも何度か紹介した船の波に関する新しい法則である。

 新法則を発見した後、次に実行に移したのはこの法則を船の型の設計に応用することだった。その1つに「船首の水面位置の形状を鋭くする」という設計手法がある。この手法を使えば、船が作り出す波は小さくなり、抵抗を受けにくくなる。それを実証するために船の先端を鋭くした2隻の商船を設計して、その結果を、研究会を通して造船会社に広めた。そうして10年余りの歳月のうちに、世界中の船が、鋭い先端を持つものに変わっていった。

 新しい法則の力は絶大だった。この法則を信じた設計をするだけで、波による抵抗(造波抵抗)を20%くらい減らすことが簡単にできた。何も複雑な計算をする必要はない。法則を定性的に現場の作業に応用するだけで、かなりの成果が得られたのである。

専門性や独自性だけを強調する姿勢はマイナスに

 ただし、どんなに大きな威力を持つ新しい法則を見つけて、それを実証しても、それだけではまだ完璧ではない。さらに高度で複雑な設計をするためには、船が作り出す波と、船型の関係をより詳細に理解しなければならない。

 そこで始めたのが、波と船の関係を仮想的に再現(シミュレーション)するためにコンピューターを利用する研究だ。波を構成するのは水である。その水を、100万個の粒子から成るものと仮定し、一つひとつの粒子の挙動を理解し制御するエンジニアリング手法を開発した。

 研究を開始してから4年後の1983年に、世界で初めて船の波をデジタルで再現することに成功した。この技術は、この年から日本の造船設計の現場で利用が開始された。それ以来、もう20年以上もたつので、波のシミュレーション手法を船の設計現場で使うのは、今や常識になっている。

 この船型を設計する手法を開発するストーリーを小売業の進歩のストーリーに適用してみよう。アナロジー(相似)の発想は大切である。分野の壁を越えて交流し、互いを高め合うためには、専門性や独自性だけを強調する姿勢はマイナスになる。アナロジーの発想こそが、プラスの効果を出すのだ。小売業では、船型の設計における100万個の水の粒子を、100万人の顧客に置き換えて考えることになる。

コメント3件コメント/レビュー

サービスサイエンスは世界的な流れです。アメリカを中心とした世界的な動向を見ても、今、世の中に必要とされていることがわかります。工学の対象は、理学などで蓄えられた知見を元に実用に耐える技術や方法論を提供し、社会の利益になることだと思います。産業の活性化に助力することは工学に与えられた使命です。扱う対象に意思が加わり、複雑になるため、サービスサイエンスの課題を解くことは非常に難しいです。解は時間とともに変化しますし、唯一無二の解は出せないといってもいいと思います。ただ、科学的なアプローチにより、より良い解が得られ、改善できる可能性は大いに秘めています。既存の工学のアプローチで扱える分野を対象にし、時間をかければ成果が見える研究よりは、よっぽど創造的ですし、挑戦的だと思います。私は、宮田先生の挑戦は素晴らしいものだと思います。
(2007/05/31)

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

サービスサイエンスは世界的な流れです。アメリカを中心とした世界的な動向を見ても、今、世の中に必要とされていることがわかります。工学の対象は、理学などで蓄えられた知見を元に実用に耐える技術や方法論を提供し、社会の利益になることだと思います。産業の活性化に助力することは工学に与えられた使命です。扱う対象に意思が加わり、複雑になるため、サービスサイエンスの課題を解くことは非常に難しいです。解は時間とともに変化しますし、唯一無二の解は出せないといってもいいと思います。ただ、科学的なアプローチにより、より良い解が得られ、改善できる可能性は大いに秘めています。既存の工学のアプローチで扱える分野を対象にし、時間をかければ成果が見える研究よりは、よっぽど創造的ですし、挑戦的だと思います。私は、宮田先生の挑戦は素晴らしいものだと思います。
(2007/05/31)

工学の場合、研究対象は意思を持たない物質である。
主役である人間が物質を意のままにコントロールする事を目指す学問だ。一方、サービス産業の対象は人間であり、尊重されるべき意思と権利を持つ。この記事で提案している方向上にあるイノベーションは、人間の行動や意思決定をコントロール出来るようになる事を意味すると思う、十分可能で大きな可能性があるが、これを人間社会は望むか? 技術を止めることが出来ないなら、対抗的にこの種のコントロールから自己を守るための教養や技術のニースが高まると思う。長期的に人間社会の健全な発展に役に立つ新しい技術と市場はむしろこちらの方向性の中にあると思う。(2007/05/27)

非線形の波の挙動を解析するのに、たった100万個の水の”粒子”を想定して計算するのは、すごく荒すぎるように思うのですが。
多分1983年では、計算能力の低いコンピュタ-しかなかったから仕方がなかったのでしょうが。
ところで、計算流体力学では、どの程度の格子サイズにするかは、どれだけ現象を理解したいかで決まってくると思います。同じアナロジ-で、小売業を考えるときは、どれだけ顧客動向をつかみたいかで決めるものと思います。
例えば、極端な例では、宇宙旅行を販売する会社は、多分潜在的顧客は、全世界を含めても、数千から数万の範囲で収まってしまうでしょうから、数万程度であれば、計算もなにも、直接その人たちと話をすればいいことでしょう。
小売業でも、コストとアウトプットを考えて、顧客動向モデルの複雑さを決めればいいと思います。
以上が非常に理科系的議論です。
現実は、最適サイズをもった顧客動向モデルが理論的に正確にできるのであれば、経済学の一大革命であり、それを作った人は、多分マルクスやケインズよりももっともっと、尊敬されるでしょうね。
私も理科系ですが、理系の困った特徴は、自分がすごく単純な世界を相手にして理論を組み立ててているので、他の世界もきっとその程度の単純さで、扱えると思ってしまうことだと思います。(2007/05/26)

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井上 礼之 ダイキン工業会長