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なぜ、彼は大手メーカーを半年で辞めたか

ものつくらぬ、ものづくり世界企業――三井海洋開発(2)

  • 宮田 秀明

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2007年6月15日(金)

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 米国は20~30年前から、製造をアジアに任せて、IT(情報技術)やサービス業で国際競争力を高める戦略を進めてきた。結果として、例えば、大学の機械工学分野に力を入れなかったので、機械関係の人材が育たなくて、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターの技術者のレベルが下がり、自動車産業の競争力が低下していったと見ることができる。

 競争力が低下すると、社員に対するインセンティブの水準が低下して、ますます人材が向かわなくなり、産業が衰退していく。いくら優秀な経営者をヘッドハンティングしたり、資本を導入して経営を立て直そうとしても限界がある。産業や企業の成長と人材力は表裏の関係にあるのだ。

 造船技術についてもそうだ。米国では、軍事分野があるので造船産業も、造船技術も、重要な位置を占める。しかし、冷戦の終結の頃から、これらの重要性が低下した。そして、マサチューセッツ工科大学(MIT)や、カリフォルニア大学バークレー校の造船はもちろん、海洋工学の教育はおろそかになる一方だった。海洋関連の学生数が減り、消えていった学科も少なくない。そうして、米国の海洋工学や船舶工学のレベルは低下し続けた。

 世界最強の米国海軍の技術も、ご多分に漏れない。例えば、“アーレイバーク級”というイージス艦があるのだが、幅の広い船型にしてしまったため、大きな馬力が必要になっていて、あまり優れた設計とは言えない。それをマネさせられた日本のイージス艦も、幅を広くしたおかげで航行する時に大きな波が生じ、その波が激しく崩れる時の騒音で潜水艦探知用のソナーが使えないという笑い話のようなことが発生した。

若手への権限委譲なくして、成長はない

写真1

三井海洋開発がブラジルのリオデジャネイロ沖合50キロに設置したFPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)。水深は480~880メートル。1日当たり平均産出量は石油が8万1000バレル、天然ガスが7500万立方フィート

 人材育成ができなければ、技術は進歩するどころか退化してしまう。例を上げたらキリがないが、かつての米国海軍は、ジェットフォイルなどの難しい高速船のシステム開発で輝かしい実績を持っている。だが、最近では高速船技術をオーストラリアから技術導入するなど、あまりパッとしない。米国では船型開発できる人材が少なくなったのだろう。

 これは日本の海洋業界でも同じである。前回から紹介している三井海洋開発という企業が、海洋油田の生産貯蔵設備で世界第2位の地位を占めるようになった背景には、人材難で苦労しながらも社員をきちんと育成してきたことがある。

 10年近く前のことだ。学部を卒業して私の研究室から巣立ち、ある大手メーカーに就職したN君は、その会社を半年で辞めた。飛行機開発の仕事にかかわりたかったのに、かなわなかったという理由だけではなかった。天性に近い設計マネジメント力を生かす機会が、その会社では当分与えられそうもないことが理由だった。

 私は1990年頃から、工学部におけるものづくり教育をプロジェクト形式で行うため、人力船プロジェクトを教育カリキュラムに組み込んでいた。このプロジェクトに参画した大学3年生のN君は水を得た魚のようだった。いろいろな設計アイデアを出すだけでなく、カーボン繊維の積層などの製造面でもマネジャーとしてリーダー役を務めた。そうして、プロジェクトの最後を飾る全国大会では、東京大学チームの出場艇が200メートルを44秒で走り、見事に学生部門で優勝を果たした。

 このような、天性のマネジメント力を持つ人材を大企業は生かせなかったのだ。大手メーカーを退職したあと、2~3の会社を転々としていたN君は私に相談しにやって来た。その時に紹介したのが三井海洋開発である。転職した後、N君は本当に水を得た魚だった。めきめきと頭角を現し、10年でこの企業でなくてはならないプロジェクトマネジャーに育った。

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