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世界初の下水管更生工法を生んだ“技術屋”のロマン
~足立建設工業・秋元榮器

(第1回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞)

  • 岡部 直人

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2007年6月12日(火)

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 下水道。言うまでもなく、重要なライフラインの1つだ。その老朽化した下水管を新管同等に蘇らせる管路更生において、下水管を掘り起こすこともなく、水が流れた状態のままでやってのけるという工法(SPR工法)の開発。

 足立建設工業が本格的にこの難題に取り組むことになったのは、80年代前半の羽田空港の配水管更生がきっかけだった。工事をする際、滑走路や誘導路を掘り返すことは、飛行機の離発着を止めることになってしまうので避けなければならない。そうした作業に伴う様々な影響を最小限に抑える方法が検討された結果、当時、すでにヨーロッパで実績を上げていた「インシチュフォーム」という工法を使うことで、ある程度の対処ができることが分かった。しかし、これを契機に、日本の事情に合った管渠(かんきょ)更生工法の研究・開発は、東京都下水道局をはじめ、関係諸機関の検討課題になったのである。

“ロマンを追いかける担当”起つ!

秋元榮器さん。様々な現場で強力なリーダーシップを発揮している

秋元榮器さん。様々な現場で強力なリーダーシップを発揮している (写真:加納拓也、以下同)

「これはウチがやらなきゃ誰もやらないだろう。それなら先手必勝だ」

 実現すれば、世界初となる「SPR工法」開発の先頭に立った秋元さんは、当時の意気込みをそう振り返る。

 もとより足立建設工業は、1962年の設立以来、土木工事(特に上下水道)を専門分野とし、業務を特化することで技術・人材共に高い専門性を有している。加えて、社会的なニーズには何としてでも応えるという企業スタンスと、“ロマンを追いかける担当”を自認する秋元さんの「オレがやらなきゃ誰がやる」という開発者魂が合致したのである。そして、プロジェクトはスタートした。

不可能と思えるアイデアからつかみ出したヒント

 とはいうものの、最初の頃は、とてもプロジェクトと呼べるようなものではなかった。社内でも、趣味、道楽といった目で見られることもしばしば。実際、会議で出てくるアイデアは、まるでSFのような、実現不可能なめちゃくちゃなものも多かったという。それはそれで、製品化さえ考えなければ楽しそうではあるが…。

 そんな混沌の中で、現在の工法に繋がっていったのは、ブリキのダクト管のように、ブリキの帯をスパイラル状に巻き上げてパイプをつくるというアイデア。下水管の中で、帯状の部材を渦巻きの状態で巻いていき、管の内壁に密着させるという方法だ。

 そこで問題になってきたのが、そのための帯、部材の素材だ。ブリキは錆びるから使えない。ステンレスはどうか。これなら錆びにくいが、コストがかかりすぎる。そんな行き詰まった秋元さんの耳に、ある情報が入ってきた。積水化学工業がオーストラリアの企業から、プラスチックの帯をスパイラルに巻いて管をつくる技術を輸入したという。積水化学工業は独自に、この技術をベースにしたパイプの製品化を考えていたのである。

 この情報に触発された秋元さんは、さっそく、単純な構造のプラスチックの帯と試作機を製作、実験を開始する。だが、巻いていくうちにどんどん太くなっていってしまう…。それを解消するために「テープを巻く時に引っ張りながら巻くときっちり巻ける」ことをヒントに、油圧を使って引っ張る力を調整する方法を開発してみたり。

昨日のライバルが今日の友に

帯状のプラスチックをスパイラル状に巻き、管をつくる。実際には、下水管の中でつくっていく
帯状のプラスチックをスパイラル状に巻き、管をつくる。実際には、下水管の中でつくっていく

帯状のプラスチックをスパイラル状に巻き、管をつくる。実際には、下水管の中でつくっていく

 そんな試行錯誤を経て、この方法が、ある程度形になったのを受けて、秋元さんは東京都下水道局に共同開発の提案を持ち込んだ。同じ頃、積水化学工業もまた、共同開発を同局に提案。足立建設工業と積水化学工業、両社がそれぞれの思惑で研究・開発していた技術が、ここに出合い、世界初のSPR工法を実現する役者がそろった。

 新しく創設された「東京都下水道サービス」が両社の技術を検証。最終的に、機械施工は足立建設工業が、帯は積水化学工業のものをベースにすることで合意する。3者による研究会がスタートしたのは1986年のことだった。

 しかし、そう簡単に技術と施工は合致しない。そもそも、プラスチック(硬質塩化ビニール)は硬い。スパイラルに巻くために無理やり曲げようとすると、パキーンと折れてしまうのだ。

「当時の積水の製造担当者や開発スタッフは、“秋元さんの機械はスチールを巻く機械だ、プラスチック巻く機械じゃない”って思ってたんじゃないかな。よくケンカもしましたよ(笑)」

 問題は、それだけではない。素材がプラスチックだけの帯だと、自重でたわんでしまったり、形状を保てずに丸まってしまう。帯にスチールを入れてみるなど、秋元さんの帯への要求「こんなもの欲しい、あんなもの欲しい」は高まる一方。そんな前向きなバトルは、3年ほど続いた。

丸管から、どんな形状の管にでも対応できる自由断面へ

 コンサルタント的役割を果たす東京都下水道サービス、工事施工を担当する足立建設工業、材料開発に技術力を持つ積水化学工業と、共同開発に参加した会社それぞれが適材適所でチームを組めたことは幸運だった。

プラスチックの帯は非常に硬いが、技術によって柔軟な変形も可能である。自由断面への対応は、この帯があればこそ

プラスチックの帯は非常に硬いが、技術によって柔軟な変形も可能である。自由断面への対応は、この帯があればこそ

 機械や帯が改良されるたびに、実験工事で検証され、そして改良され、また工事で検証する。開発と実証実験は、ほぼ同時進行。チーム発足からの10年間は、比較的簡単な現場で実験が重ねられていった。

 1987年の時点では、250ミリから600ミリクラスの口径の丸管に対応。その後徐々に、より大きな径、そして1500ミリを超える口径まで、丸管の大口径に対応する形で改良が進められていった。

 1998年には、矩形渠(くけいきょ)、馬蹄形渠(ばていけいきょ)など、どんな断面形状でも更生が可能な「自由断面SPR工法(自走式製管方式)」を実用化。

 下水道の環境は、現場によって千差万別だ。簡単な現場から難しい現場へと、場数を踏むごとに技術は改善・改良され、熟成していった。もちろん、そうした努力は今も継続している。現在、自由断面は、口径5000ミリまでの、ほぼどんな形状の管にでも対応できるところまで進化した。当初は、地面を掘り返さない工法でやっているのに、途中で掘り返さざるを得ない状況に追い込まれてしまうこともあったというが、それも今では笑い話。

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