「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

その場の空気、読めていますか

NECの感情認識装置に見る「察する文化」の底力

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2007年6月11日(月)

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 「あいつ、まじ“KY”よねぇ」

 近頃のギャルにこう言われると、かなりヤバイようです。“KY(ケーワイ)”とは、「空気が読めない」の略。昔も今も、ギャルもオヤジも、その場の空気が読めない人は評価が低くなります。

 空気を読む――すなわち、今相手がどう感じ、何を考えているのかを読み取り、その場で自分の立場を斟酌して、どう振る舞うべきなのかを判断することです。その場の雰囲気を的確に感じ取り、それを基に行動できるということは、社会生活を営んでいくうえで、とても重要な能力でしょう。

 空気を読む能力は、もちろん世界のどこに行っても重要なのですが、中でも日本は特に高度な“察する力”を試される社会だと言えるかもしれません。思うところのすべてを言わない相手の言わんとするところを受け手の方で汲み取る。すべてを語り尽くすことは、下品、あるいは未熟者の作法であると見なされることすらあります。今回は、この日本的な「空気を読む」コミュニケーションスタイルと、ものづくりの関係について考えてみたいと思います。

人は言いたいことを言葉だけから察しているのではない

写真1

NECとNECデザイン、日本SGIが共同開発した「言花(ことはな)」。実際の感情認識は、接続したパソコンで処理する (写真:山西 英二)

 この空気を読むという、かなり人間的な能力を実現することを目指した装置があります。NECとNECデザイン、日本SGIが共同で開発した「言花(ことはな)」が、それです。

 言花は、人の会話を聞き取って、その会話の内容ではなく感情を読み取る装置です。抑揚やピッチ、トーンといった声の調子から、話し手がどのような心情でいるのかを推測します。読み取った情報は「喜び」「哀しみ」「平常」「興奮」という感情の指標にざっくりと大別し、それぞれを「黄」「青」「緑」「赤」の4色で表し、発光ダイオードを組み込んだ花びらを光らせるのです。

 例えば、気になる彼女を電話で食事に誘ったとしましょう。彼女が「ええ、そうですね。ぜひ」と応じた時に、こちら側の言花が、興奮の赤と喜びの黄色が混じったオレンジ色に強く光れば、これはいい感じかも…となり、こちらの返事の声も弾んで彼女側の花びらが真っ赤に染まる…という按配なわけです。驚いたことに、言語にあまり依存しないという性質もあります。英語で答えても、韓国語でも、似たような結果が得られるのだそうです。

 考えてみれば、相手が話す言葉の意味が分からなくても、相手が喜んでいるか、おつき合いで返事をしているのかは、何となく分かるものです。言葉を解さない赤ん坊でも、夫婦喧嘩が始まろうものなら泣き出したりしますし、ペットの犬だって主人の足をペロペロとなめて、その場を何とかしようとします。それは、言葉の調子で何となく気配を読み取っているからでしょう。声の調子から場の雰囲気や気配を知る。これが言花が目指すところなのです。

 では、人間はどのようにして相手の言いたいことを推し量っているのでしょうか。米ペンシルバニア大学のレイ・バードウィステル教授が手がけた研究によると、「2者間の対話では、言葉によって伝えられるメッセージは、全体の35%に過ぎず、残りの65%は、話しぶり、動作、ジェスチャー、相手との間の取り方など、言葉以外の手段によって伝えられる」という実験結果が得られています(注)。

 その時々の条件によるとはいえ、私たちが普通に話している時、言葉の内容が3分の1程度しか寄与していないという事実は興味深いものがあります。言葉の内容よりも、声の調子や顔の表情、仕草といった行間を表す表現の方がはるかに重要だというわけです。これは、米国で行われた研究なので、英語によるコミュニケーションでの結果ですが、米国の文化人類学者であるエドワード・ホールさんは、世界の言語別にコミュニケーションスタイルの比較を試みています。

(注)【参考文献】『非言語(ノンバーバル)コミュニケーション』、マジョリー・F・ヴァーガス、石丸正訳、新潮社

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)



このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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