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「情報システム事故」、技術者だけでは防げない

2007年6月11日(月)

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 5月後半、全日本空輸、NTT、JRの情報システムで相次いで事故が起きた。いずれの場合も、些細な操作ミスや切り替え作業が、システム全体が停止するような悪影響を与えてしまい、しかもなかなか原因を特定できなかった。残念ながら今後も、情報システムの事故は続くだろう。そうならざるを得ない構図について、日経ビジネス誌に「ITの07年問題は“逃げ水” 全日空などシステム障害、対応には限界も」という一文を書いた。本欄においては、情報システムの根本的な事故防止策について考えてみる。

 情報システム事故の直接原因は、いずれも小さいミスである。しかしそれがより大きな事故につながる以上、現場の情報システム技術者はこれまで以上に細心の注意を払って、システムを開発し、動かし、維持しなければならない。

 コンピューターの総合誌、日経コンピュータは6月11日号に「相次ぐ社会インフラの大規模障害」と題した記事を掲載、その中で「原因を知り、同じミスを繰り返さないことが必要」と述べ、原因が明らかになった事故について「テスト不足」ないし「現場と管理者の情報共有不足」に分類している。テストを徹底できないところにこそ問題があるのではないか、という思いが一瞬頭をよぎるが、同誌の指摘が間違っているわけではない。

 現場の技術者がそもそも足りないという指摘も出ている。日本経済新聞は6月2日付の社説「システム障害防止へIT人材の育成を」において、「IP(インターネットプロトコル)技術に精通した技術者や開発を統括できる経験者が日本には少ない」と指摘し、「若者の理科系離れが進み、特に情報分野は新3K(きつい、厳しい、帰れない)職場として敬遠されている」と述べている。精通した技術者や経験者が常時足りないのは事実だが、それは日本だけなのか、理科系離れは本当か、といった疑問がわくし、全国紙の社説から「情報分野は新3K職場として敬遠されている」と言い切られては、現場で復旧作業に取り組んでいる技術者たちが一体どう思うか、と社説を執筆した論説委員に絡みたくなる。といって、IT(情報技術)人材の育成が急務という主張が間違っているわけではない。

 経営者にこそ問題がある、という意見も出た。6月6日付の日本経済新聞「ニュースの理由」欄は、「結局は企業経営者の意識の問題に行き着く。ITを本業の根幹にかかわる問題と位置づけて、自らも積極的に理解しつつ、資金と人員を十分投入して開発・管理体制を整備する経営姿勢が必要だ」と述べている。これを読んだ多くの企業経営者が「相当な資金と人員を長年投入してきたではないか。これ以上の金がいるのか。ITは本当に金食い虫だ」とつぶやくのではないかと心配になるが、「経営者の意識の問題」という指摘が間違っているわけではない。

情報システムの問題は全員の問題

 以上の指摘はすべて正しい。では、国が技術者を育成し、経営者が金を出して技術者を雇い、技術者たちが開発現場においてテストや情報共有をしっかりやれば、情報システムの事故は防げるのか。残念ながら、そうはならない。まだ足りない点がある。

 「情報システムの問題は自分の問題」という認識を関係者全員が持つ、このことが喫緊の課題だと筆者は考える。ITの技術者や、情報システム担当部門、コンピューターメーカーやIT関連企業は当然、自分たちの問題と思っているが、はっきり言って、技術者たちだけで情報システムの事故を防ぐことはできない。

 日経が指摘したように、経営者は自分の問題と見なすべきだし、企業における営業、生産、サービスといった現場部門の責任者や担当者も、情報システムの問題を自分の問題としてとらえる必要がある。さらに、一般消費者など、企業から財やサービスを購入する顧客も同様の認識を持つことが望ましい。

 企業の情報システムとは、その企業のビジネスを情報によって支える仕組みであって、単なるコンピューター機器のことではない。コンピューターとその上で動くソフトウエア、仕事で必要な情報、仕事のやり方(プロセス)、その仕事に従事する人、すべてを包含したものが、広義の企業情報システムである。むしろ、「ビジネスシステム」と呼んだ方がよいかもしれない。したがって、ソフトを開発している技術者はもちろん、システムを使ってビジネスをする経営者や現場部門、さらにはビジネスの対象顧客まで、全員が情報システムの利害関係者になる。したがって情報システムの問題は、関係者全員の問題なのである。

 情報システムの事故を招く背景には、今日の情報システムが高度かつ複雑に成り過ぎていることがある。現場部門の要請をすべて鵜呑みにしてシステムを開発し続けると、こういう結果に陥る。複数の現場部門から上がってくる要請を整理し、優先順位を付け、本当に必要な機能だけを開発できれば、情報システムを今よりは簡素な形で維持でき、事故が起きる可能性を引き下げられる。ビジネス案件の整理や優先順位付けは、IT技術者の仕事ではなく、経営の仕事である。経営者や現場部門の責任者は、ITそのものの細かい点を理解する必要はないが、ITを利用する目的を明確にし、仕事の優先順位を付けなければならない。

 ITは金がかかるし、万能ではない。場合によっては、IT以外の方法を選ぶべきであるし、事故が起きた時に、ITを使わず仕事を続行できるように準備しておく必要もある。「その業務の作業量はそれほどではないから、コンピューターを使うまでもない。手作業に戻してしまおう」という経営判断があって差し支えないし、そうしなければ複雑かつ高度な現行システムは、さらに肥大化し、事故を誘発する。

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「「情報システム事故」、技術者だけでは防げない」の著者

谷島 宣之

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)

日経BPビジョナリー経営研究所

一貫してビジネスとテクノロジーの関わりについて執筆。1985年から日経コンピュータ記者、2009年1月から編集長。2013年から現職。プロジェクトマネジメント学会員、ドラッカー学会員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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