「宮田秀明の「経営の設計学」」

宮田秀明の「経営の設計学」

2007年7月20日(金)

もっと、若い人に任せなさい

アポロ計画はなぜ成功したか

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 1969年の今日、アポロ11号は史上初めて、人間を月面に到達させた。それから40年近くになろうとしているが、今のNASA(米航空宇宙局)でも、同じことを実行する力はなさそうである。有人月プロジェクトより、はるかに易しいスペースシャトルのプロジェクトで四苦八苦しているありさまだ。今や、2年前に2度目の有人宇宙飛行を成功させた中国の方が、米国より早く月旅行を再現するかもしれないという予想もあるくらいである。

 69年当時、アポロ計画を担っていた技術者の平均年齢は26歳だったという(注1)

 アポロ計画には、ジョセフ・シェイやクリストファー・クラフトといった40歳前後の非常に優秀なプロジェクトマネジャーがいた。プロジェクトマネジャーの一番大切な仕事の1つはチームづくりだ。そして彼らは、経験豊かなベテランではなく、柔軟性に富み、変化に適応でき、成長力のある若手を進んで登用した。その結果が平均年齢26歳の若い技術チームである。

 クラフトは言っている。

 「新しいアイデア、新しい能力、新しいやり方はいつも若者から出てくる」

難しいプロジェクトほど、“若い人”の挑戦が必要

 難しいプロジェクトであるほど、若い力に頼らなければならない。難しいプロジェクトでは不可能を可能にすることが要求されるからだ。このためには、プロジェクトメンバーの成長が必要になる。不可能を可能にするためには大きな力がいる。大きな力は、変化を引き起こす力の種類に属し、それは若い人にしかできないことが少なくない。若い人の方が、プロジェクトの時間軸の中で遂げる成長の変化量が大きいためである。

 もちろん、年齢だけが人間の伸びしろを決めるわけではない。あくまで、若い人の方が変化を遂げる可能性が高いというだけである。50歳でも創造に挑戦する人がいる。変化に挑戦し、自分自身を変えられる人が“若い人”だと言い換えてもいい。

 今よりも寿命が短かったという背景もあるが、戦前、技術では世界トップレベルにあったゼロ戦や戦艦大和の計画主任、つまり設計のプロジェクトマネジャーは40歳前後だった。そして、そのマネジャーを現場で支えたのは20代前半で任官した技術将校たちである。経験の長さだけが人を育てるのではないことが分かる。若い頃から創造的な仕事を責任とリスクとともに与えられて、人が育つのだ。

 世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」の第30回大会に向けて、私が技術開発チームを編成した時、様々な事情で経験豊かな技術者を集めることができなかった。それどころか設計チームの中心になった技術者は、みんな20代だったし、彼らを各要素の技術開発によって支えたのは国内の5大学に在学中の学生たちだった。今思えば、これはハンディキャップであると同時に、アドバンテージだったのだ。

(注1)【参考文献】『NASAを築いた人と技術』、佐藤靖、東京大学出版会

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など


このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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