インターネット経由のソフトサービスで、急成長を続ける。
従来の製品にない安さと使い勝手が最大の武器だ。
中小企業を突破口に、大企業への攻勢を本格化する。
自社以外のアプリケーションの販売市場を開設。
グーグルとも提携して、巨人マイクロソフトに挑戦する。

ソフト業界の巨人に挑戦するマーク・ベニオフCEO (写真:鍋島明子)
「マイクロソフトは死んだ。同社のOS(基本ソフト)『ウィンドウズ・ビスタ』にはブレークスルー(画期的な技術革新)がないから、普及が進まない。とりわけインターネットのメリットが生かされていない」。こう言い切るのは、米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO(最高経営責任者)だ。
6月上旬、米サンフランシスコのレストランで、朝食に特大のフレンチトーストをほおばりながら取材に応じた2m近い巨漢は、耳を疑うような挑戦的な発言を繰り返した。自分たちが「ソフトウエア業界の秩序の破壊者である」という強烈な自負が、ベニオフCEOにはある。
ビジネスソフト界のグーグル――。そう呼ばれるセールスフォースは業界の誰もが注目する急成長企業だ。2007年1月期の売上高は約5億ドル(約600億円)と小さいが、年間成長率は6割以上。成熟傾向が顕著で、買収による整理統合が進む企業向けソフトの世界で、驚異的に高い伸び率を誇る。7月9日時点のセールスフォースの時価総額は約52億ドル(約6000億円)で、株価は約3年で3倍近くに達した。

ソフトをサービスとして提供
成長の原動力は、ソフト業界の常識を覆すビジネスモデルにある。セールスフォースは、営業活動において顧客・商談の管理や販売予測に使う「CRM(顧客情報管理)」製品を手がける。ただ、それをパッケージソフトではなく、ネット経由で“サービス”として提供するのが特徴だ。「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス=サーズ)」という注目を集めるモデルで最も成功しているのがセールスフォースである。
競合するのは、米オラクルやマイクロソフト、独SAPなど業界を代表する巨人たち。彼らの主力製品は、パソコンやサーバーにインストールして使うソフトだ。対するセールスフォースの製品には、ネット経由のサービスならではの数多くの利点がある。
まず導入期間が短いこと。「従来のCRMソフトを大企業が導入するには通常1年程度かかる。それがセールスフォースの場合は3カ月で済んだ」。約2000人の社員がセールスフォースを利用し、その後同社製品を販売するようになった日立ソフトウェアエンジニアリングの小野功社長は説明する。
顧客にとってのコストメリットも大きい。導入期間が短くなれば、初期費用が安くなる。導入コストの大半を占めるのは人件費。期間が4分の1になれば、コストもそれに比例して減らすことができる。顧客データなどもセールスフォース側が保管・管理するため、サーバーなどを新たに購入する必要もない。利用料は1カ月1ユーザー当たり1200円からと手頃だ。
使い勝手も高く評価されている。「ヤフー」や「アマゾン」のように、素人でも直感的に分かる画面デザインを採用。さらにソフトを新しいバージョンに更新する頻度は、インストール型のソフトが通常3〜4年に1回であるのに対し、セールスフォースは3年間で22回に達する。


米国を超える成長続ける日本法人の宇陀栄次社長と普及が進むセールスフォースのサービス画面(右下) (写真:都築雅人)
「毎年3回ユーザーの要望を聞いて、200〜300項目を改善する。変化の激しい時代には3年も経つと、製品が陳腐化してしまうからだ」(セールスフォース日本法人の宇陀栄次社長)
セールスフォースの普及は急加速している。過去3年間で利用者は約5倍の64万6000人。利用企業数も3万2300社に膨れ上がった。
「セールスフォースは、従来のソフト業界のビジネスモデルを激変させる破壊的なイノベーター(革新者)。これまで勝者だったオラクルやSAPは、現在の主力事業を脅かしかねない新しいモデルに転換するのは難しい」。ベストセラーになった『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の著者で、ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授は、こう分析する。
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