「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

会議中の“あれ”、気になりません?

ゼブラのボールペンに見る「配慮する文化」の奥ゆかしさ

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2007年8月20日(月)

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 先月は、トイレの話をしました(トイレの話1トイレの話2)。トイレの用足しの音が恥ずかしいと感じる日本人の気質が、擬音発生器という画期的な商品を生み出したという話です。黄金の蛇口や大理石の床のような豪華絢爛さを競うのではなく、恥ずかしい音を消したいというような上品な贅沢さに向けて開発が進んでいく。勇者英雄よりもハニカミ王子が人気を集める国民性がこうした商品企画の裏にあるのかもしれません。

 この話の中で江戸時代には既に「音消し壺」という擬音装置が発明されていて、ご先祖様たちもなかなかハイセンスだったという事例を紹介しました。この壺は、山路茂則さんというトイレ研究家が記した『トイレ考現学』(啓文社)という本に掲載されています。実物は、岡山県の矢掛脇本陣というところに残っているそうです。

 ただし、一緒に紹介した「厠土瓶(かわやどびん)」や「厠団子(かわやだんご)」は、どうやら事実ではなかったようです。NBオンラインの幅広い読者の中にはトイレ博士もいらして、これら2つは劇作家の別役実さんが書いた『道具づくし』(ハヤカワ文庫)という本に登場したものが出所だとご指摘をいただきました。ありがとうございました。

 『道具づくし』は、別役さんが創作した想像上の「昔の道具」を紹介した本。調べてみると確かに「かわやどびん」と「かわやだんご」が紹介されています。日本を代表する劇作家だけに内容は真に迫っていて、この本を読んだ少なからぬ人が実在したものだと信じてしまったようです。TOTOのホームページやパンフレットにも、史実として引用されていたほど。実は「かわやどびん」や「かわやだんご」が多くの文献で誤って引用されてしまったので、別役さんは後に別の著書で、危うく民俗学事典に載るところだったと種を明かしています。私も、してやられた1人だったというわけです。

 オンラインメディアならではの迅速なフィードバックは、本当にありがたいことです。トイレを含めた、ありとあらゆる分野に市井のマニア、今風にはオタクがいて、このように詳細な検証ができるということもまた日本風だと感じます。

ボールペンをノックする音、うるさくないですか

 さて、今回は“音”について、別の切り口で日本的ものづくりを考察したいと思います。テーマは、人が使う道具が出す音です。

ゼブラが昨年9月に発売した3色ボールペン「クリップ-オンG3Cマナー」

 皆さんの周りに、会議中にボールペンをノックし続けている人はいませんか。「カチャカチャ」という音は、気になり始めるとどんどん気になるわけですが、発生源である当人は周囲の迷惑顔もどこ吹く風。とにかくカチャカチャし続けるのです。

 実は、この音問題の解決を狙った商品があります。文具メーカー大手のゼブラが昨年9月に発売した「クリップ-オンG3Cマナー」という3色ボールペンです。特徴は、色を切り替える時のノック音を小さくできるマナーモードが付いていること。この機能がウケて隠れたヒット商品になりつつあると言います。大々的に広告しておらず、置いている文具店も多くないにもかかわらず、口コミで伝わり、増産体制を整えつつあるそう。私も使っていますが、確かに会議中も気兼ねなくカチャカチャできて重宝しています。

 マナーモードで真っ先に思い出すのは携帯電話。会議中、電車の中、友人との食事中、けたたましい呼び出し音は場の空気を乱します。それを解決するマナーモードは、本体を振動させてマイルドに着信を伝える優れた発明です。場の空気を重んじる日本社会では特にありがたい機能ではないでしょうか。

 オフィスには、携帯電話やボールペンのほかにも気になる音を出す道具が少なからず存在します。例えば、パソコン。誤操作すればアラーム音が鳴りますし、冷却ファンやDVDのモーター音も結構うるさい。自動車のエンジンのように水冷式を採用した静音型パソコンが登場しているほどです。

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)



このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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