「キーマンに聞くネット広告の未来」

電通を出てウェブに賭けた理由

(オーソリティ編−1)

バックナンバー

2007年9月19日(水)

1/2ページ

印刷ページ

ウェブの急速な発達は、広告の世界を激しく変化させています。しかしその中でも、今回お話を聞いた吉田望さんのように、電通というメインストリームにいた方が、会社を辞めて、ウェブを中心にしたビジネスを起こしたという例は、まだ珍しい。今回はその理由を通して、ウェブと広告の関係をうかがいたいと思います。

「既成」業界に未来はあるか?

吉田 僕は2000年に電通を辞めて、広告コンサルタントの会社を興したのですが、辞めようと考えた動機はまさに「ウェブで広告が変わっていく」と、確信したから。ウェブの動きは90年代からずっと僕の中で大きな位置を占めていましたね。

―― ウェブに注目したきっかけは何だったのでしょう?

吉田望(よしだ・のぞむ)ノゾムドットネット代表取締役

吉田望(よしだ・のぞむ) ノゾムドットネット代表取締役
1956年東京都生まれ。東京大学工学部卒業。慶応義塾大学大学院経営学修士。1980年、電通に入社。営業局、ラジオテレビ局、電通総研、メディアコンテンツ統括調査部長、電通ドットコム取締役などを経て2000年に退社。ブランド・コンサルタント「ノゾムドットネット(吉田望事務所)」を設立する。ウェブ制作会社「コンセント」取締役。アカウントプランニングの専門会社「takibi」代表 (写真:大槻純一、以下同)

 きっかけというより、広告業界の構造的な問題を考えてしまったということなんです。既存の広告業界というのは、ものすごくマスメディア依存なんです。それもテレビ依存が圧倒的で、テレビというメディアからの収益率が75%くらいなわけです。

―― その数字の前では新聞ですらかすみますね。同じマスメディアでも。

 そうなんですよね。その75%を電通と博報堂がほぼ支配していて。同時に、その収益の源であるテレビや新聞は、規制業界です。規制業界というのは、何か事件が起きて、社会的問題になるケースが多い(笑)。

―― 金融業界とか、建設業界とか。

 庶民から恨まれて、嫌われて。銀行にしても、ゼネコンにしても、庶民のシンパシーというのがなくなると、ぼろぼろになるわけです。そういった例を過去に見ていて、いずれテレビや新聞にもそれが起こるだろう、と僕は思ったんです。それが1999年ぐらいのタイミング。

 ただ、広告会社はネット広告でも儲けられるようにビジネスモデルを変えていかなければならない、ということまでは自分の中で明快に予言できるんだけど、果たして電通のような既存の大組織にそれができるのか? と自問した時に……。

―― できないと思われたんですね。

 はっきり言ってそうです。だったら、ウェブと広告の関係がどうなるのか、僕自身が実践してみようと思いまして。「ノゾムネット」というブランドを戦略的に位置づけるコンサルティングの事務所を開き、今では「コンセント」というウェブの制作会社と「takibi」(タキビ)というウェブ主体のアカウントプランニング会社の3社を経営しています。

既存ビジネスが儲かりすぎて、変われない

―― クライアントもネット企業になるのですか。

 はい。今のテレビ広告も新聞広告も、メディアコミッションが主な利益です。つまり、メディアを広告計画に入れないと利益が出ないという構造。それを変えていくには、ネットを経営戦略に組み込むセンスがクライアント側にも必要になります。たとえば僕らのクライアントの「松井証券」は、ネット証券として有名です。松井証券の場合は、もう自社自身がメディア化しているわけなんですね。そういう会社は、自分たちのサイトを面白くして、そこにコンテンツがあればいいや、と分かっている。別に新聞広告とかテレビ広告とかを打つ動機がない。

―― そのようなネット企業を、大手の広告会社が開拓する動きはないんですか。

 あまりないですね。とはいえ、その理由もまた明快で、要は儲からないんですよ。だってトヨタとか花王とか、年間メディア予算が500億円のような企業がすでにクライアントに付いているわけだから。テレビや新聞の枠を売っていれば、15%のメディアコミッションで75億円が入ってきますからね。既存メディアの代わりに、わざわざネットを持ち出す理由がない。

―― では逆に、ネットを主戦場とする吉田さんの売り物は何になるのでしょうか。

 クライアント企業の戦略コンサルタントである自分自身がマーケッターにも、クリエイターにもなることです。

―― つまり営業とクリエイティブが密接に関連している、というか、1人でできる、ということですね。

分業から、ひとりへ

 既存の広告会社では営業がクリエイターを兼ねるなんて、嫌われてしまって、あり得ない。大組織の中では、よほど大規模なクライアントでない限り、クリエイターやマーケッターとの連携は限りなく薄まっていきますよね。マーケッター、クリエイターがクライアントに会うのって月に1回ぐらいで、その間を営業が「ウチのクリエイターがこう言ってます」「じゃ、その路線でこう変えてよ」「はっ、分かりました」とか言いながらつないでいます。

 それが、今の僕のやり方だと、1日単位で進む。何か課題点があればすぐ「これはこうした方がいい」と、お得意様に提案できます。それってつまり、あなたの前にいる人がマーケッターであり、CMプランナーであり、コピーライターですよ、お得意様自身もある意味、そうなんですよ、ということ。

―― その方が意思決定、問題解決のスピードは速いですよね。

 これは言い過ぎかもしれないけれど、ネットだったら、ものすごく時間と手間をかけなくても、お互いちょっと物足りないレベルのクリエイティブでもいいんです、正直に言うと。その方が臨機応変だったりもする。

―― 「ネットならば超一流クリエイターでなくてもいい」と。どういう意味でしょう。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント1 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界をまたにかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。



このコラムについて

キーマンに聞くネット広告の未来

ネットの動力源として欠かせないのが「広告」。Googleもそうだし、本サイトもそう。資金は広告から得ているところがほとんどだ。だとしたら、ネットの未来と広告の未来は大きく重なるはず。その近未来の姿を、業界のキーマン達から読みとってみたい。現場の悩み、夢、斯界の論客が書く絵図など、さまざまな角度から「ネットと広告の未来」をお送りする。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内