「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

2007年11月5日(月)

車椅子界のポルシェのカッコ良さ

進化の目覚ましい弱者向け技術(1)

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 この夏、酷暑の中、世界陸上が大阪で開催されました。期待された日本選手たちのパフォーマンスはいま一つ不発気味で、最終日の女子マラソンの土佐礼子選手の銅メダルでなんとか面目を保ったという結果に終わりました。

 開催国日本からは過去最多の81人の精鋭選手が参加しましたが、8位以内の個人種目の入賞は土佐選手を含めて総計6人。メダル獲得数での国別対抗では36位という結果でした。悪いコンディションの中でも実力を出し切ることの難しさを知らしめるような結果だったと言えるでしょう。

 今回の世界陸上では公開競技として2種目限定ながらパラリンピック種目も行われました。男女の1500メートル車椅子レースです。その結果は、副島正純選手の銀メダルを筆頭に8位以内入賞者数が日本選手10人のうち計5人という大活躍ぶりでした。

 ご存じのように、世界陸上でもトップアスリートたちは特注品のシューズを履いています。大手のスポーツメーカーには熟練工を絵に描いたような達人がいて、専属契約を結んだ選手たちに個別にテーラーメードのシューズを提供しています。足の形に合わせるだけでなく、各々の走り方の特徴を生かす工夫や、弱点を補強するような設計思想を盛り込んだうえで、熟練の手業が完璧にフィットするシューズを作り上げます。作り手が選手以上に選手を知り尽くすソリューションの極致の世界です。

 軽量化を極限まで突き詰めたレースシューズになると、素足の皮膚の一部のようであり、本番1回走るだけの耐久性しか保証できないような尖ったものまであるといいます。ここまで極めたレーシングシューズのパフォーマンスへの寄与度はどれくらいかというと、「5%」というマジックナンバーがあります。たかだか5%と言うなかれ、100分の1秒を競う頂上の世界では、この5%にしのぎを削る価値は十分にあるのです。

「カラダ1割、クルマ9割」の競技に挑む千葉の車椅子メーカー

世界有数の競技用車椅子メーカーであるオーエックスエンジニアリング(千葉市)が開発した最新モデル。北京パラリンピックを視野に入れたこのモデルでは、メインフレームに今までにない中空プレスフレームが採用され、重量を増やさずに剛性を上げることに成功している

世界有数の競技用車椅子メーカーであるオーエックスエンジニアリング(千葉市)が開発した最新モデル。北京パラリンピックを視野に入れたこのモデルでは、メインフレームに今までにない中空プレスフレームが採用され、重量を増やさずに剛性を上げることに成功している (写真:小久保 松直、以下同)

 一方の車椅子レースですが、こちらの世界には「カラダ1割、クルマ9割」という言い回しがあります。乗る車体を替えた途端に記録が飛躍的に伸びたという事例は珍しくない世界だそうです。普通の陸上競技の方のトップアスリートに聞くと「身体をギリギリまで追い込むからこそ、その5%の靴の性能にこだわるんだ」と言います。

 そして車椅子レースのトップアスリートは「その9割の車の性能を最高に引き出すためにギリギリまでカラダを鍛えるのだ。いかに人車一体になれるかにかかっている」と言います。トップを狙うこの世界では、シューズは足との一体化を、車椅子は人車一体を目指しているようです。

 今回のコラムはこの車椅子アスリートの世界です。身体に障害を持ち、本来は「弱い人」なはずなのに強い人、ハンディキャップなのにトップアスリートというユニークな属性のモノづくりについて考えてみたいと思います。

 実は、車椅子界に現れた花丸急上昇中の注目の日本メーカーがあります。日本のトップレベルの選手の約90%近くのシェアを獲得し、“車椅子のポルシェ”と呼ばれるレーシングマシンを創り出すオーエックスエンジニアリング(千葉市、以下OX)です。同社の広報を担当され、同時にパラリンピック北京大会を目指す全日本の強化指定選手でもある花岡伸和氏にお話を伺いました。

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)


このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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