ネットマーケティングの起爆剤となる「ブログ」。良質なコンテンツを発信するブログは、メディアとして多数の読者を持ち、信頼性も情報の伝播力も大きい。その影響力を期待して、映画の試写会や、製品発表の場にブロガーを招く方法を取るところも多い。
だが、こういったブログの記事は、企業が発信する広告とは異なり、内容も方向性も、企業に都合良くコントロールはできない。何を覚悟し、どうつき合えばいいのか。1つの成功例として、2007年7月に登場した新型新幹線「N700系」のブロガー試乗企画を取り上げてみよう。お話を伺うのは、メディア・コミュニケーション戦略を担当した博報堂DYグループ クロスメディアビジネスセンター・コンテンツプランニングディレクターの島崎昭光氏だ。
―― N700系新幹線の試乗体験に、多数のブロガーを招待し、それが多くの面白いブログとして、情報発信されていった。しかも、鉄道の話題なのに、そういったブログの数々は、俗にいう「テツ」じゃない私たちが読んでも、面白く読めた。これはなかなか希有な例じゃないかと思います。
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島崎 ありがとうございます。いまお話しいただいた「普通の人も面白く読めた」みたいな感覚を、N700系の記事について多くの方に持っていただくことができれば、この企画は成功であると思います。
―― 今回の企画が実施に至った経緯を教えてください。
それでは、最初の経緯からお話ししましょう。

新型新幹線「N700系」
JR東海さんから新しい新幹線、N700系が出るということになった。その特徴を伺えば伺うほど、その技術面、快適性、環境への配慮といった様々な側面で素晴しい進化が起きている。例えば、東海道区間の最高速度は270キロ/時出ていますが、現実的には様々な制限から、それ以上、早く走らせることができない。今回は、加速度を高めて早く最高速度に到達するようにしたり、車体を傾けて最高速度のままカーブを通過できるようにすることなどにより、東京~大阪間が5分短縮した、といったこと。あるいは、グリーン車が今よりずっと良くなるとか、新幹線がエコであるなんてことは、私もお話を伺うまで知らなかったんですけれど。様々な機能改善があって、知れば知るほど、スゴイ新型だと……。
まさに「N700系は新幹線の完成形」、ということだったんです。
でも、これを伝えるのは難しい。
5分短縮したとしても、お客さんにしてみれば、7年前に、のぞみが東京-大阪間を30分短縮した方がインパクトがあったんです。
―― なるほど。普通の人に新型のすごさを理解してもらうのは、数字が伴わないと確かに難しいですね。
だから、新幹線という商品・サービスの素晴らしさを、いかに生活者目線の言葉や表現で伝えるか、あるいは、生活者にとって有益な情報として届けるか。それが、最大の目標でした。
もちろん、オーソドックスなCM的手法で、ちょっとカモノハシみたいな──特徴的なフロントのビジュアルを配したグラフィック広告や雄大で先進的な世界観を表現したTVCMを展開したり、それからブルーを基調にした新幹線らしいイメージで、新しさを強調したり。そういったアピールをしていく一方で、でもやっぱり30秒のCMでは全部言いきれないコンセプトがたくさんある。
CMはCMとして作りながらも、そういった深いコンセプトを伝えるのは、それはやっぱりウェブサイトだよね、と。でも、初めは、あくまでも受け皿としての企業サイトをどう作るかという課題だったんですけどね。
ブロガー試乗会は「続きはWeb」とは違う
―― 「短時間のCMでは伝えきれない様々なコンセプトや改良点を、ウェブできっちり読ませたい」というオーダーだったんですね。
そうは言っても、「続きはWebへ」CMの効果は疑問があります。この方法では、CMしか見ない人に対して、ブランディングができないわけです。多数へ向けたCMもしっかり作ったうえで、ウェブサイトにもたくさん来てほしいという、ある種の「いいとこ取り」的な課題だったんです。これは、最初にお話をいただいた段階から、課題として意識しました。
―― それが、試乗会にブロガーを招待するという方法につながったわけですか?
それが、そうでもないんですよ。
JR東海さんからすれば、特にブログで何かやりたいということではなかったんです。もちろん、ブログを相手にしたコミュニケーションが流行っているということはご存じでした。でも一方で、炎上と言われるようなリスクもあることも……。
「絶対にブロガー試乗会をやりたい」というよりは、クライアントと話を詰めていく中で、最近のメディア環境の変化を踏まえ、ブロガーにも対応しないといけないのではないか、というような、テストケース的な認識だったと思います。それに、対応そのものを、どうやったらよいのか分からない部分もありました。
なにしろ、ブロガーを集めた試乗会そのものは、これが初めてではありません。すでに様々な業態のプロモーションでやっていて、しかもそれが有効だということも、業界的には言われている。でもどれも、実感がないんですよね。
直接ブログから知った人はいったい何人いるんだ、と。その数よりも、ブログをテレビが取り上げて、テレビで知った人が何人だろうかと考えると、テレビの方がやっぱり多い。
テレビの力は強いが、見ない人もはっきり存在する
―― それはそうでしょうね。
ところが、そういうことを突き詰めていくと、マス広告しか見ない人と、ブログの情報は見るけどテレビを見ない人、そういった集合の重なりの部分が、見えないわけです。
そこで、マスでのコミュニケーションと、Webやメディアを活用したコミュニケーション、その両方を的確に押さえないと、すべてのお客さんに広告できないんじゃないでしょうか、と、JR東海さんにお話ししたわけです。
今まではCMさえきちんとやれば、100人に伝えられた。それが今では、80人か90人ぐらいに伝えられる。でも確実に、残りの10人には、伝わらない時代になっているわけです。その10人をフォローするためには、やっぱりWebやメディアで何かをやらないといけない。
やらなければならないことは、やらなければいけません。だから必須です、と。
ブロガーを巻き込むのも、そういう目的があったわけです。試乗会に招待するといったことをやらなくても、書く人はブログに書きます。だとしたら余計、企業として何らかの対応、企業側からのコミュニケーションを取っていく必要があるのではないか、そういったお話をしていったわけです。
(JR東海側担当者のインタビューはこちら)
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