効く広告の黄金則のひとつに「sex sells」があります。性的なことを想起させる広告は効く、という意味です。
私のこのコラムと同じ火曜日更新の「伊東 乾の『常識の源流探訪』」において、先週「セックスの快感は脳を麻痺させる」という記事が掲載され、たちまち日経ビジネスOnline読者の心をわしづかみにしてしまいました。来る日も来る日も「読者が選ぶ注目記事」「昨日のアクセスランキング」両方で1位をキープ。あらためて「sex sells」だなぁ、伊東先生すごいなぁ、と感心してしまいました。そこで、今週はこの広告の黄金則「sex sells」について考えてみたいと思います。
不動産価値と同じく「sex sells」においても「ロケーション」が重要
今回の記事を読んで「これは『愛の流刑地』の話題の醸成と同じ構造だ」と思いました。
小説『愛の流刑地』が話題になったのは、日本経済新聞で連載されていた当時です。政財界の重鎮が半生を振り返る『私の履歴書』、友人たちの交流を語る『交遊抄』などに混じって、性的な描写満載の小説が毎日掲載されたことで、話題というよりむしろ論争を巻き起こしました。
この時も自分のブログで書いたのですが、もし『愛の流刑地』が文芸誌やスポーツ新聞で連載されていてもこれほどの話題にはならなかったと思います。日本経済新聞という場所を選んで「sex sells」したから目だって話題になったのです。不動産価値で重要な要素を3つ挙げるとしたら「ロケーション、ロケーション、もうひとつロケーション」と聞いたことがあるのですが、「sex sells」においても、「ロケーション」は極めて重要です。
今回の「セックスの快感は脳を麻痺させる」という記事も、「アサヒ芸能」だけでの展開であればたいして話題にならなかったでしょう。歌舞伎町で「sex sells」しても、周囲の風景の中になじんでしまうのと同じこと。でも日経ビジネスOnlineといういわば「丸の内」で「sex sells」したわけですから、注目するなというほうが無理というものです。サブプライムローンの影響や、食品の偽装問題や、マーケティングの明日、といった記事を読む場所で、いきなりセックスにまつわる話と実験が展開されるわけですから、目立ちます。
コンドームのCM企画で体験したテレビ局考査の壁
以前、ある製薬会社の仕事でコンドームのテレビCMを企画したことがあります。
その際に、企画コンテを持って民放各社の考査担当者のところに出向いて「仮にこういう企画のCMをつくったら、放送可能でしょうか?」とお伺いをたてる行脚をしました。できるだけ性的な表現を避けて企画を考えたのですが、商品が商品ですから、最終的に性的なことへの連想が皆無というわけには行きません。結局、どこの放送局からも放送できそうな感触を得ることは出来ず、テレビでCMを流すというアイデア自体が立ち消えてしまいました。
性的な表現をしてもらったら困る、という場所で「sex sells」するからこそ目立つわけですが、広告に対してはとりわけ厳しい考査基準があり、なかなかオンエアまでこぎつけるのはタイヘンです。
仮にオンエア出来たとしても、先日も広末涼子が出演するペットボトル入りのお茶のCMの中で「ブラジャー」という言葉の入ったナレーションが、視聴者からの抗議で変更になったように、良識ある視聴者からの抗議というリスクは常にあります。
だからこそ、「どーせ無理だよ」と競合が既にあきらめている上を行くことができた時には、非常に目立つし効果が期待できるのです。
インターネット上の「下ネタが溢れていない場所」の価値
新聞やテレビでは抗議がたくさんくる。では、インターネットはどうでしょうか? インターネットには、あらゆる性的嗜好にこたえる様々なサイトがあり、そんな場所で広告コミュニケーション上OKな範囲で性的なニュアンスを匂わせても効果はさしてないだろう、というのが従来のとらえかたでした。
しかし、今回の日経ビジネスOnlineにおける「セックスの快感は脳を麻痺させる」が証明したとおり、ネット上においても、すべてが歌舞伎町なわけではなく、丸の内も、田園調布も、南青山も、存在するわけです。そこで、きちんと、街の文脈とルールから大きく逸脱しない範囲で性的なことをうまく利用すれば「sex sells」は大いなる成功に導いてくれる可能性があります。
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