昨年末に、コラムを書こうと思って取材をしたり調べたりしたものの、執筆に至らなかった題材を整理し、パソコンに入力した。ファイル名は「2008年宿題.txt」である。今年2008年にやるべき宿題のリストは非常に長いものになってしまった。リストの中で、日経ビジネスオンライン(NBO)に関する部分をそのまま掲載してみよう。
◎ NBO・知財(特許とインターネット)
○ NBO・日本で報じられないマケイン氏
○ NBO・三菱とUFJのシステム統合
○ NBO・朝日社説批判 (NHK会長人事)
○ NBO・マクニーリ氏の発言
○ NBO・電子メール問題
○ NBO・年金問題
○ NBO・憂鬱な調査報告
○ NBO・NSSolの天下り
○ NBO・携帯番号移転
○ NBO・生体認証について(偽造キャッシュカードその後)
「◎」を付けたのは何としても書かないといけない話である。本来、昨年春頃には書けたはずだったのだが、出稿できないうちに、日本経済新聞や日経ビジネスなどに関連記事が掲載されてしまった。ほかにも読者や関係者に「書きます」と約束した案件が並んでいる。
リストの中から今回は「日本で報じられないマケイン氏」について書く。マケイン氏とは、米国大統領選で共和党の候補を目指しているジョン・マケイン上院議員を指す。趣旨は題名にある通り、米国と日本の報道の差、すなわち「情報格差」を指摘することにある。本コラムは政治欄ではないから、大統領選の帰趨を論じるわけではない。
米国が持ち続ける理想主義
「日本の新聞にマケイン氏のことはほとんど載りませんね」。この発言を聞いたのは2007年6月、発言者は早稲田大学文学学術院の留守晴夫教授であった。米国文学を専門とする留守氏が、ある勉強会で米国に関して講演し、その中でマケイン氏について言及したのである。講演の狙いは米国に一貫して流れている思想を探ることにあり、大統領選を占うといった政治的なものではなかった。
その日の講演は、フランクリン・ルーズベルトに深い感銘を与えたオリバー・ホームズ判事の「達成不可能こそがほかならぬその本質をなす、真の理想の存在しない世界に誰が耐えられるか」という言葉から始まった。強い信念を持って理想を追求する姿勢が米国のリーダーには一貫してあり、例えばマケイン氏が引き継いでいるという。
筆者が興味深く聞いたのは、英米の新聞や雑誌がマケイン氏の姿勢を絶賛する記事を掲載しているという指摘であった。留守教授は、何か意図を持って調べたわけではなく、ごく普通にインターネットで読める有名紙誌の記事を読んでいるだけで、そうした記述にしばしばぶつかった。その一方、日本の新聞や雑誌からは、そうしたことは伝わってこない。
昨年6月というと、米国の世論調査でマケイン氏の支持率が急落し、大統領選から脱落かと言われていた頃である。支持率の急落は、イラクに駐留する米国軍を増強することを決めたブッシュ大統領の増派策を、マケイン氏が積極支持したことが原因であった。マケイン氏は、イラク戦争に開戦時から賛成し、制圧に大量の派兵が必須とした軍の主張を退けたドナルド・ラムズフェルド前国防長官を批判し、現在も増派を支持している。
「戦争に負けるくらいなら、選挙に負けた方がまし」
留守教授によると、米国や英国のメディアは次のように報じた。ウォールストリート・ジャーナルは、「マケイン氏はヴァージニア陸軍士官学校において、いかにしてイラク戦争に勝利し得るかについて語るであろう。多くの米国国民と共に、我々は関心と敬意を抱きつつ耳を傾けるつもりである」「近頃の不人気と、政治家としての最も見事な時とが、全く時期を同じくした政治家として、彼は称賛されてしかるべきである」と書いた。
でも、それをいったらロン・ポールなんて、それこそ、日本じゃ報道もされていないじゃないですか。まあ、アメリカでも規制されていますけど。ネットと、メインストリームメディアとの情報格差についても、もうすこし言及していいのではないでしょうか。Ken Sato(2008/02/05)