「IT経営問答」

ビジネスを抜本改革するためにシステムを作り変える

横塚 裕志氏 東京海上日動火災保険 常務CIO(前編)

バックナンバー

2008年2月28日(木)

1/3ページ

印刷ページ

 不払い問題で揺れた保険業界は今、各社が新たな戦略を作り、ビジネスを立て直そうとする段階にある。損保最大手の東京海上日動火災保険は、隅修三社長が「正しく、スピードがあり、お客様に好感を持っていただける業務プロセスに変えていこう」と内外に宣言、代理店を交え、新しい業務プロセス作りに取り組んでいる。

 新業務プロセスを支えるために、情報システムを全面的に再構築、第1弾として5月に自動車保険を扱う新システムを動かす。新業務プロセスと新システムは、6万の代理店に所属する合計四十万人が利用する。

 抜本改革に当たっては、東京海上の業務プロセスとシステムを作るのではなく、代理店のためのプロセスとシステムを作り、それを東京海上が使う、という発想で進めている。抜本改革の一翼を担う横塚裕志常務取締役CIO(最高情報責任者)とガートナー日本法人の日高信彦社長が、ビジネスに貢献するITのあり方を話し合った。その模様を前編、後編の2回に分けてお送りする。

 両氏とも、システムエンジニア出身であるため、エンジニアの可能性から「触媒としてのIT論」まで、突っ込んだ問答が展開された。
(構成は谷島 宣之=「経営とIT」編集長)

日高 先日、御社の隅修三社長にお目にかかった時、「CIOを経験せずに社長になっていたら大変だった」とおっしゃっていました。隅さんは社長になる前、4年ほどCIOを経験されたわけですが、その間、会社のことがよく見えたそうです。全体が見えるポジションは社長を除けばCIOしかいない、4年間の経験は貴重だったと話されていました。CIO経験者、あるいはそれに近い経験をされた方が社長になる、こういう人事が日本で一般的になってほしいと思います。

 社長の隅さん、そしてCIOの横塚さんにいろいろと伺っていると、東京海上さんは今、大きなチャレンジをされようとしています。どのように考え、どんな困難に直面され、どう乗りきってこられたのか、お聞きしたいと思います。今日の話は、日本の経営者やCIOにとって大変意義深い話になるでしょう。どこまでお話しいただけるか分かりませんが、できる限り洗いざらいお願いします。

図版

横塚 裕志(よこつか・ひろし)
東京海上日動火災保険 常務CIO。1973年一橋大学商学部卒業後、東京海上火災保険入社。システム部に配属。2003年IT企画部長、2007年6月から現職(写真:中島正之、以下すべて)

横塚 思っていることは全部お話しします。もっとも、あまり大したことは思っていません(笑)。
 当社は今、「新しい風」を吹かせようと「抜本改革プロジェクト」と呼ぶ試みを進めています。「抜本」というからには、全部をいったん白紙にして、新しい業務プロセスから考えないといけません。

 抜本改革プロジェクトは、代理店さんと弊社の営業担当者という第一線の業務プロセスを、お客様が「これはいい」とおっしゃるように作り変えることを狙っています。つまり全くのビジネス戦略です。従いまして、ビジネスサイドに抜本改革プロジェクト担当役員として、神田克美専務がおり、「抜本改革推進部」という組織があります。情報システム部門側の役員が私ということになります。 

 現場の改革ですから、ビジネスサイドのリーダーがいた方がプロジェクトの意図を浸透させやすいでしょう。CIOの私が何か申し上げても、「新しいシステムを作っているらしいね」ということになってしまうかもしれないので。

図版

日高 信彦(ひだか・のぶひこ)
ガートナー ジャパン 代表取締役社長。1976年東京外国語大学外国語学部卒業後、日本アイ・ビー・エム入社。96年アプリケーション・システム開発部長。2001年アジア・パシフィックCRM/BIソリューション統括。2003年4月から現職

日高 情報システム部門が持つ役割の1つは、情報を切り口にして組織に横串を通すことだと考えています。もちろん、ビジネスサイドに改革意思があることは大事だし、リーダーシップを発揮して現場を牽引していくビジネスリーダーは不可欠です。といってビジネスサイドだけではなかなか改革ができません。

 一般論として、現場の事業部は下手をすると抵抗勢力になってしまう。過去の成功体験がありますし、それなりに部分最適の業務プロセスを持っているから自ら変えたくない。他の部門のことについてはあまり興味を持たない。こうなってしまったら、相当強烈に横串を通さないと改革は進みません。その役割を情報システム部門が担い、ビジネスリーダーと信頼関係を結んで改革を進めていく必要があります。業務プロセスの改革はどのように進めていらっしゃるのですか。

代理店のためのシステムをまず作る

横塚 抜本改革のための新システムをどういう思想で作っていくのか、一言で申し上げれば、お客様起点ということになります。今まで供給側からお客様を見て商品を作ってきたけれど、こういう状況になってしまった。反省してみた結果、お客様から見て、「いい感じ」のシステムになっているかどうか、それが大事だと気づきました。

 お客様から見て最適の業務プロセスにしなければいけないと思ったからといって、動きをすぐに変えるわけにはいきません。お客様とやり取りするのは代理店の皆さんです。そこで、抜本改革プロジェクトにおいては、代理店さんがお客様のためにいい業務活動ができる業務プロセスとそれを支える新システムを開発していきます。

 当社のシステムを作るのではなくて、代理店さんのためのシステムを作る。代理店が「これはいい」と言うようなシステムを開発することが基本になります。それが顧客起点の改革を進める近道だと思ってやっているわけです。その考えで出来上がったシステムを我々社員も使わせてもらうという考え方に変えました。従来は、社員のために作ったシステムの一部を代理店に開放していただけでした。今回は、コンセプトが全く違います。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
この記事を…
内容は…
コメント0件受付中
トラックバック
著者プロフィール

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)

日経BPビジョナリー経営研究所研究員、コンピュータ・ネットワーク局編集委員。1985年に記者となって以来、情報システム関連のテーマを取材し続けている。関わった媒体は「日経コンピュータ」「日経ウオッチャーIBM版」「日経ビズテック」「日経ビジネス」「経営とIT」など。「ビジネスとテクノロジーの一体化」に最大の関心を寄せる。



このコラムについて

IT経営問答

経営やビジネスに貢献してこそ、IT(情報技術)の存在価値はある。「ビジネスに役立つIT」を追い求める経営トップやCIO(最高情報責任者)を、ガートナー ジャパンの日高信彦社長が訪ね、経営とITを一体化させる勘所を語り合う。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン