「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

「音質の劣化が気になっています」

音づくりの最前線、Goh Hotoda氏の現場(2)

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2008年4月21日(月)

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 前回のコラムでは、音楽界の“エンジニア”であり世界的なミキサーのGoh Hotoda氏に音づくりの極意についてお話を伺いました(「世界的サウンドエンジニアの技」)。あえて不安になるような音を作品にほんの少し入れ込むことで全体の完成度をグッと上げるというスパイスのような使い方のお話でした。

 感性工学者たちは、あらゆる道具から出る騒音を、快音やBGMにできるはずだと考えて日夜研究を続けています。同じ音でも音楽というアートの領域から同様に心地よさを追求しているのがミキサーたちです。今回も引き続き深遠なる快音の世界をホトダさんに伺います。

世界のミュージックシーンの関係者で「ミキサーのHotoda」の名を知らない人はいません。手がけたアーティストは、マドンナ、マライア・キャリー、ジャネット・ジャクソン、宇多田ヒカル、坂本龍一、シンディ・ローパー、チャカ・カーン、レイ・チャールズ…

世界のミュージックシーンの関係者で「ミキサーのHotoda」の名を知らない人はいません。手がけたアーティストは、マドンナ、マライア・キャリー、ジャネット・ジャクソン、宇多田ヒカル、坂本龍一、シンディ・ローパー、チャカ・カーン、レイ・チャールズ…

 「音質の経年的な劣化が気になっているんです」と世界のホトダ氏は言います。「若い頃よく聴いたあの懐かしのメロディー。何年かぶりに押し入れから取り出してもう一度聴いてみると、なんだか音がおかしいと感じることがありませんか?」

 レコードやカセットテープの時代は「擦り切れるくらい何度も聴いたよ」という表現がありました。これらの記録媒体は「接触記録方式」と言って、読み取りの針や磁気ヘッドが記録媒体に物理的に接触しながら読み書きしているので、確かに徐々に傷がついたり摩耗したりすることもありました。しかし今日のDVDやハードディスク、フラッシュメモリーなどにはそのような心配はなくなりました。そのうえ情報がデジタル化されたので、何回コピーを繰り返しても音質の劣化は生じません。

 にもかかわらず、経年劣化とか寿命保障という言葉を聞くと、これら最新の記録メディアの研究者たちは急に黙ってしまいます。フィールドでの実績がないからです。一体何十年もつのか? 昨日撮った息子の運動会の音声や動画のファイルは、この子がおじいさんになった頃も消えずに観られるのか? という素朴な問いに、実は確かな答えがありません。様々に工夫した過酷条件での加速試験から逆算して、おそらくもつでしょうとしか言えないのです。従って、テレビ局の大量の動画資料や政府の重要文書などはいまだに磁気テープで書庫にバックアップアーカイブ(長期保管)されています。磁気テープが一番歴史が長くて実績が確かめられているというのが単純な理由です。

 話がそれてしまいましたが、実はホトダさんの心配はこのようなメタルレイヤー(物理層)の話ではありません。

加齢による耳の劣化に対応する音

 ホトダさんの心配は、音情報の保存状態の変化ではなく、聴き手の人の耳の方にあります。私たちはほぼ例外なく歳を重ねるにつれて耳が遠くなります。若い頃の元気な耳で聴いた曲のイメージと、衰えた耳で聴くそれとの間にテイストの違いが出てしまうことが残念だというのです。この現象に対して、音づくりの側のエンジニアにできることはないのだろうか、と彼の発想は向いたわけです。

 音には倍音という要素があります。和音とかオクターブの違う同じ種類の音というようなニュアンスです。原曲を加工していく際、ホトダさんは主旋律を司る音階に対して低い側の倍音を少し気を使って厚めに入れておくという独特の配慮をします。

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)



このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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