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くしゃみも握手も広告枠!?~星新一の描く『宣伝の時代』は現実化したか

  • 須田 伸

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2008年4月30日(水)

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 星新一のショート・ショートに『宣伝の時代』(新潮文庫『だれかさんの悪夢だれかさんの悪夢』に収録)という作品があります。1970年の作品です。描かれているのは、個人が自分の身体の「あらゆる反応」を広告媒体として売る世界です。

くしゃみのたびに、商品名を口にしてしまう

 「あらゆる身体的反応」というのは、たとえば、電車内では、自分の「あくび」という行為を広告枠として売った中年の男が「あああ、疲労回復の栄養剤は強力ドミンが一番か…」と、あくびするたびに繰り返しています。別の青年は、くしゃみのあとで「風邪にはルキ錠だったな」とつぶやきます。こんな具合に、個人が自分自身を広告媒体として企業に提供する未来社会が描かれているのです。

 他にも、誰かと握手するたびに「ギャラクシー印のコーヒーは最高だぜ」という旧友や、キスすると「カペラ・ジュースはキスの味みたいよ」というエレベーターガールが登場します。当然といえば当然かもしれませんが、彼らが口にする広告コピーが、当時の広告で実際に使われていた広告トーンとよく似ていて、未来社会を描いたSF作品でありながら、懐かしい気持ちにもなる不思議な作品です。

 1970年といえばテレビやテレビコマーシャルの影響力が急速に増していた頃です。このテレビCMの爆発的な伸張がSF作家の創造マインドを大いに刺激したようで、他にも

  • 『住宅問題』(家の中がコマーシャルだらけである代わりに家賃がゼロになる未来)
  • 『テレビの神様』(テレビばかり見ていたら、「テレビの神」から視聴率をピタリと予言する能力を授かった男の話)

…といった、テレビやテレビコマーシャルに関するショート・ショートが生まれています。また星新一氏は実に数多くのショート・ショートを作品としてのこしていますから、今回紹介した以外にも、宣伝やコマーシャルがモチーフになった作品が他にあったとしても不思議ではありません。

『宣伝の時代』は現実化したのか?

 特に私が『宣伝の時代』に注目したのは、個人が広告媒体になるという、昨今なにかと話題の、CGMあるいはUGCとよばれる、個人が発信する情報が広告的価値を持つ状況を、このショート・ショートの名手が40年近く前に書いていることです。

 まだブログやSNSはおろか、インターネットも携帯電話もない時代に個人がメディア化する未来を予見した作品を書いていることに驚きました。

 このショート・ショートの最後は、こうしめくくられてます。

「朝からさまざまな商品名を聞かされたが、すぐ忘れてしまってなんにも記憶に残っていない。人間のひめている可能性ははかりしれないが、人間のひめている適応力のほうがもっと大きいようだ」

 果たして、この作品で描かれた世界は現実化していると言えるでしょうか。

 私は、半分イエスでありながら、半分ノーだと感じています。

 インターネットの出現、そしてブログやSNSなどの簡便な情報発信ツールの誕生、ケータイ電話の普及などで、まさに個人が広告メディアになるという未来は現実化したと言えるでしょう。しかしそこで個人が発信している内容は、『宣伝の時代』で描かれているような「キャッチコピーやCMソングを連呼する」というようなものではありません。CGMやUGCの本質は、もっと自由な表現であり、消費者ひとりひとりの自分なりの言葉です。

 そうでないもの、単なるコピー&ペーストの「似非個人メディア」は「スパム」として排除されていきます。また、広告効果も極めて低く、きちんとした企業であれば採用しない手法です。

 この違いにこそ、人間が「気持ち悪い」と感じずに折り合いがつけられる範囲の中の、現実の未来なのだと思います。

 いかに人間に「適応力」があるとはいえ、テレビCMのように「中心にいる誰か=広告主や彼らから依頼を受けたコピーライターなど」が開発したメッセージを、そのままの形で自分に乗せて放送する、いわば「入れ物」としての役割しか果たさない個人に対しては、われわれは拒否反応や嫌悪感を持ってしまうでしょう。

 では、どういう形なら受け入れてもらえるのか。

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