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ワイングラスのエンジニアリングは深遠なり

オーストリアの老舗リーデルに学ぶものづくり(1)

2008年5月12日(月)

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 ワイングラスの形は、なぜ洋梨状のフォルムになっているのでしょう。ステムと呼ばれる茎の上に乗っかった、ちょっと下膨れで先がすぼまった美しいあのフォルム。今回のコラムは、この定番フォルムに隠された深遠なエンジニアリングの話をご紹介致します。

洋梨状のフォルムは、深遠なエンジニアリングに裏付けられている。リーデルから6月1日に発売される新シリーズ<ソムリエ ブラック・タイ>

洋梨状のフォルムは、深遠なエンジニアリングに裏づけられている。写真は、オーストリアの老舗リーデルから6月1日に発売される新シリーズ<ソムリエ ブラック・タイ>(写真提供:リーデル・ジャパン)

 ワインの歴史は紀元前にまでさかのぼると言われていますが、ワイングラスの定番フォルムの歴史は驚くほど浅く、作り出したデザイナーの名前まで特定できます。1958年にクラウス・リーデルさんという方が偶然に作り上げた奇跡のデザインということが分かっていて、実はたかだか50年ほどの歴史しかないのです。

 このクラウス・リーデル氏、250年の歴史を誇るボヘミアンガラス工房を支えてきたリーデル家の第9代目当主であり、ガラス工芸の職人です。先の大戦の傷も癒え始めた1950年代後半は、欧州に自由闊達な解放感があふれた時期でした。

 そんな頃、イタリアのとあるお客さんから、今までにないデザインで比較的大ぶりなワイングラスの注文依頼が舞い込みました。もともと機能重視で質実剛健な北ヨーロッパ気質のリーデル社の回答が、装飾性を極力排しつつも、きわめて薄肉の高度な生産技術に裏づけられた洋梨状のフォルムです。大容量ながらも口に当てた時に飲みやすいフォルムを追求した結果でした。

洋梨状フォルムの前は、先端がラッパ状に広がっていた

 当時、この洋梨状フォルムは誰も目にしたことのないもので、デザインの斬新さは高く評価されたようです。ワイン関係者の間で話題を呼び、あちこちから引き合いがあったと言います。

第2次大戦以前の定番のグラスは、先端がラッパ状に広がった形状だった

第2次大戦以前の定番のグラスは、先端がラッパ状に広がった形状だった

 ちなみに、それ以前のワイングラスの形状も紹介しておきましょう。第2次大戦以前のグラスはみな、先端がラッパ状に広がった形状でした(写真)。古代ローマ時代を描いた映画や、中世の王様が宴席で杯を傾けているシーンでは、定番はこんなラッパ状のグラスですね。アラビアから正倉院に伝わったガラス器、紺瑠璃坏(こんるりのつき)もこの形をしています。

 さて話を戻して、斬新な外観が評判を呼んだ初代リーデルワイングラスですが、その後数奇な運命をたどります。これで飲むとワインがおいしくなるという噂が立つようになったのです。肉厚を薄く加工するとか、複雑な形状、豊かな色合いといったようなガラス工芸視点での技巧性の高さについては自負のあった同社ですが、味覚という視点での「機能」については考えたことはありませんでした。

 気を良くした9代目リーデルさんは欧州各地のワイナリーに送って、この新グラスを試してもらいます。しかし、その反応はまたも想定外でした。以前のグラスで飲むよりうまいという反応と、逆にまずくなったという反応に分かれたというのです。この体験が、今日のリーデルワイングラスの発展のすべての始まりとなりました。

同じワインでも異なるグラスで飲むと味わいが変化することを発見

 彼の洞察力は、ワインの味とガラス器の形状の間に何らかの相関関係があることを見抜きました。全くゼロからの試行錯誤を繰り返しながら、彼のこの仮説は1つ、また1つと立証されていきます。3年間の悪戦苦闘の揚げ句、ようやく第2号器が完成します。前回不評だったボルドー系統のワインに対して最適化したグラスの形状を突き止めたのです。

 こうして模索を続けていくうちに、味や風味とグラス形状の関係性を決めているパラメータが徐々に明らかになってきました。ワインの風味は、「果糖の甘み」「ブドウの酸味」「タンニンの渋み」や「果実の香り」「アルコールの刺激」などから成り立っています。これらワインの風味を形作っている特徴とグラスの形状との関係性を、システマチックに丹念に解き明かしていきました。そして15年の時をかけてようやく10種類の基本バリエーションが出揃います。

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「ワイングラスのエンジニアリングは深遠なり」の著者

川口 盛之助

川口 盛之助(かわぐち・もりのすけ)

盛之助 代表取締役社長

戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンにてアソシエート・ディレクターを務めたのちに株式会社盛之助を設立。研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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