「経営の情識」

「トレードオフの概念は日本に無いのか」
三菱東京UFJ銀のシステム一本化報道に思う

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2008年5月22日(木)

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 「三菱東京UFJ銀行は5月12日、情報システムの一本化をいよいよ始めたが、大きなトラブルは無く、年末まで続く一本化作業はまずまずの滑り出しとなった」

 こういう書き出しと論旨の一文を書いて公開したら、読者の皆様の多くは「テレビや新聞は、12日から13日にかけてシステム障害が発生と大々的に報じていたではないか」と首をひねるに違いない。「まずまずの滑り出し」と筆者が書きたいのは、システム全体を見渡すときちんと動いており、一部で発生した不具合を当日すぐに修復できたからだ。

 筆者は4月23日付本欄で「失敗を期待するマスメディアを裏切って、三菱東京UFJ銀は一本化プロジェクトを成功させると確信している」(関連記事「失敗を待つマスメディアの監視下、システム一本化を始める三菱東京UFJ銀行」)と書いた。続く4月24日には、IT(情報技術)専門家向けウェブサイト「ITpro」のコラム欄に「この巨大システムは大きなトラブルなく、必ず動くと信じている」とまで書いた(関連記事「6000人が作ったシステムは必ず動く」)。

 5月12日にテレビや新聞で報道されたトラブルがあったものの、筆者は上記の記述を撤回あるいは修整するつもりはない。年末までに一本化は終了すると思うし、大きなトラブルは今のところ起きていないと考えている。

 こう書くと「そうは言っても障害が起きたことは事実。必ず成功すると書いたお前は意地を張っている」と思われるかもしれない。意固地になっているつもりはないが、複数の尊敬する知人から「必ず成功するなどと極端なことを書くから恥をかく。しばらく頭を冷やして沈黙されたし」と言った趣旨のメールが送られてきた。本来、知人の忠告には耳を傾けるべきである。

 当事者の三菱東京UFJ銀は「不便、迷惑を深くお詫びする」(13日付の日本経済新聞記事)と平身低頭の姿勢であり、それ以上のコメントを控えている。テレビや新聞の関心事が別の所に移った今、「大きなトラブルなく」動いたと筆者が主張すると、同行は「ありがた迷惑」「そっとしておいてほしい」と困惑するかもしれない。

そもそも大したトラブルではない

 というわけで、本稿を公開すべきかどうか、5月12日から1週間ほどあれこれ考えた。だが、次の2点だけはどうしても書いておきたいと腹をくくった。12日に起こったトラブルはごく小さいこと。そうしたトラブルまでをゼロにしようとして金をかけるのはおかしいこと。これらは「トラブル回避と費用増のトレードオフ」というテーマである。

 公表され、報道されている12日のトラブルは2種類あった。1つは午前7時から三菱東京UFJ銀行の顧客がセブン銀行のATM(現金自動預け払い機)から出金などができなくなったこと。セブン銀行の件で不成立に終わった取引件数は約2万。13日付の朝日新聞は「(影響を受けた人は)少なくとも約2万人に達した」と書いていたが、1人の顧客がATMを数回操作した可能性があるので、不成立取引件数と利用者数は一致しないはずだ。このトラブルでセブン銀行のコールセンターに電話をした顧客は、600人だという。
 

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著者プロフィール

谷島 宣之(やじま・のぶゆき)

日経BPビジョナリー経営研究所研究員、コンピュータ・ネットワーク局編集委員。1985年に記者となって以来、情報システム関連のテーマを取材し続けている。関わった媒体は「日経コンピュータ」「日経ウオッチャーIBM版」「日経ビズテック」「日経ビジネス」「経営とIT」など。「ビジネスとテクノロジーの一体化」に最大の関心を寄せる。

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