1週お休みをいただきましたが、前回、データの持つ説得性に関して、功罪両面から書きました。データを活用した広告は少なからずありますが、最近、「なるほど、うまいな」と思った広告が、サントリーのプレミアムモルツの広告です。
新聞や看板などのグラフッィク広告とテレビCMの両方で展開しているのでご覧になった方も多いかと思うのですが、「プレミアムビールがお中元にもらって嬉しいものNo.1になりました」という、調査結果を活用した広告です。
お中元広告は健在?
お中元を贈るというシーンを描く広告は昔からあります。例えば、「♪ 夏の、元気な、ご挨拶〜」という印象的なサウンドロゴで今も頭に残っている「日清サラダ油 セット」のテレビCMなど。しかしお中元やお歳暮といった習慣が以前よりも減っているせいでしょうか、ギフトに特化した広告をかつてほど見なくなった印象があります。
にもかかわらず今回は、データをうまく使うことで、お中元広告というややもすると古臭くてありきたりに見えてしまうシチュエーションが、新しい見え方になっていると感じました。
しかもそのデータは、1社の広告然としたものであったのでは駄目なのであり、一定の客観性を持っていなければなりません。広告という場でデータを見せる、というのは「自作自演」的なイメージがどうしてもこびりつき、かえってマイナスに受けとめられるリスクがあるからです。その一方で、最終的には自分たちが売りたい商品に落ちていなければ目的を達しないことになります。
プレミアムモルツの広告が非常に優れているのは、「お中元にもらってうれしいもの」という問いかけに対する回答として、調査で選ばれたのが「プレミアムビール」であって「プレミアムモルツ」ではない点です。
最終的には「プレミアムビール」というジャンルの中で自分たちの商品が確固たる地位を確保しており、ちゃんと商品の広告になっています。自分たちの商品だけではなく、あえて競合商品を含めたジャンルを広告することにもなる調査結果である点が、「この調査には一定の客観性がある」と受け手に感じさせる効果につながっているのです。
たとえば同じ客観データを自分たちで用意してそれを広告で使うという手法でも、かつてのような「コカコーラとペプシコーラの飲み比べテストの結果、○○%の人がペプシを選びました」といった調査の場合、欧米にくらべて日本の消費者の目からは「その調査は公正なのだろうか? たとえ公正であっても、相手を自分の土俵に無理矢理引っ張り上げているようで、ちょっとえげつない印象がする」といったようにマイナスの効果を消費者に抱かせると言われています。
その点、今回のプレミアムモルツの広告は、商品ブランドではなく、商品ジャンルを聞く質問にすることによって、調査データとしての一定の客観性を担保して、広告という「独演会」においても活用可能にしていると思うのです。
「オリンピック代表が選ぶNo.1の水着です」
同じ客観データを広めて売上につなげるという戦略でも、広告が不要の場合もあります。例えば、今やスイミングスクールに通う子供のために買い与えようという親も出てきているという、スピード社の水着レーザー・レーサーです。この商品の場合は、レースにおける結果があまり圧倒的であったので、広告を必要としていません。
さらに、北京オリンピックで大勢のスイマー達がこの水着を着用して世界記録をマークすれば、ますます売れるようになるでしょう。「オリンピック代表が選ぶNo.1の水着です」という事実は、広告という有料メディアの手段を使わなくても、多くのメディアがニュースとして配信し、それを多くの人がブログなどの個人メディアで取り上げ、広がっていきます。わざわざお金を出して「広告」しなくても、勝手にメディアサイドでニュースとして取り上げてくれるのですから、歓迎すべき事態です。
一方で今回の水着騒動に関してはあちこちで様々なことが論評されていますが「勝者:スピード。敗者:日本の水着メーカー」という見立てが一般的です。しかし売り場においては一概にそうとも言えないようです。
百貨店の水着売り場で起きていること
6月12日の日本繊維新聞によれば、「レーザー・レーサー」の期間限定ショップを設置している小田急新宿ハルクスポーツでは、スピード社の水着が前年同月比で15%増であるのは驚くに値しないかもしれませんが、同時に、「アリーナ」11%増、「ミズノ」6%増、「ナイキ」10%増、「エレッセ」6%増と、水着ジャンル全体の売上が伸びているのです。
もちろん競合他社比較では「勝者・スピード」であることは事実であるにしても、水泳という競技ジャンルに注目が集まることで、その関連商品を販売している企業の多くがビジネスとしての恩恵を受ける結果となっているのです。
「成熟市場」と言われると、ついつい「マーケットのサイズは一定で、その中でシェアの拡大や利益率向上を競うもの」と思いがちですが、実はマーケットサイズの拡大だって、そこに生活者の注目や関心を集めることができれば可能であることを、今回のスピード社の水着に端を発した報道合戦と、その結果が示しているように思います。
本番となる北京オリンピックにおいても、水泳は、スピード社の水着の開発がなかった場合よりも、ずっと注目を集めると予測されますし、結果がどうでるかは現時点ではわかりませんが、水泳という競技ジャンルへの注目が集まることで、マーケット全体の一段の拡大が見込まれると思います。
しかし、スピードの水着のような「ニュースになるデータ」を商品自体が持っているケースはまれで、なかなかそうはうまくいかないのが現実です。では、どうすればいいのか。「ニュースになりそうなデータ」を自分のまわりから発見することが第一歩になります。
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