「Web2.0(笑)の広告学」

自衛隊の勧誘サイトに学ぶ、説得力のある動画コンテンツ

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2008年7月22日(火)

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 私の職場の後輩にN君という入社2年目の若者がいます。

毎週定例でアイデア出しをする、とあるプロジェクトを一緒にやっています。アイデアを出し合う会議の常で、雑談が重要なミーティングの構成要素です。雑談の中に、仕事に昇華するようなアイデアの種がたくさん転がっているからです。

 しかし、このN君、なかなか独特のセンスを持っていて、面白いと感じたことには実に愉快そうな表情をするのですが、逆にそうでないアイデアやエピソードに対しては、たとえそれを発言したのが誰であろうと「フン」と鼻で笑うようなわかりやすい反応をします。なのでN君の表情を、会議中のアイデアのリトマス試験紙として重宝しているのですが、そんな彼が「いやー、面白かったですよ」と、週末のエピソードを話してくれました。

 「何が面白かったの?」と聞くと「合コン」と答えるので、内心「なんだ、合コンか。俺も君の年齢の時は毎週やっとったよ」とガッカリしかけたのですが、よくよく聞いてみると、その合コンは週末に横須賀で開催されたというのです。青山でも、麻布でもなく、横須賀。「うん、それは面白いかもしれない」と思って、詳しく聞くと、合コンの相手は、自衛隊に勤務する女性たちだったというのです。

 商社、銀行、テレビ局、キャビンアテンダント、看護婦、いろんな職業の女性のみなさんと「かつては」合コンさせていただいた経験を持つ私ですが、自衛官というのは未体験です。「うん、それでどうだった?」と思わず前のめりになってしまいました。

 「いやー、やはり、自衛隊というと先入観があるじゃないですか。でも、実際に話してみると、フツーの女の子たちなんですよ。仕事のことを聞くと、すごく真剣なんですけど、プライベートは、ホント、フツーで、そのギャップが面白かったです」とのこと。「それで、盛り上がって、王様ゲームとかしたの?」と年代がバレる質問をすると「いや、それはしてないですけど、腕相撲しました」ということでした。合コンで女子と腕相撲とはますます面白い。

 ミーティングの後で、自衛隊のウェブサイトってどうなってるのかなと、検索してチェックしてみたところ、リクルーティング目的のスペシャルサイトがあり、それを見始めたらとまらなくなって、そこから約3時間かけて、そのウェブサイトのすべての動画コンテンツを見ました。合コンにはちょっと厳しい年齢ですが、このサイトを通じて、N君が体験したのと同じような「面白さ」を実感することができました。

素顔のロングインタビュー

 Webサイトのキーワードは、「平和を、仕事にする」です。そして、サイトの構成は極めてシンプルで、31人の様々な職種の自衛官をインタビューして、彼らが「仲間や職場はどんな雰囲気ですか?」「1年目って、どんな感じですか?」「給与や福利厚生はどんなものですか?」といった8つの質問に答える姿を、質問ごとにまとめて公開している、というもの。

 サイトにアクセスすると最初に表示される短いオープニング映像があり「言葉から、表情から、自衛官の仕事が見えてくるロングインタビュー」という副題が表示されます。その言葉に偽りなしで、整備士、看護師、気象観測員、調理師、航空管制官など、さまざまな職種の若い男女たちのリアルな姿が伝わってきます。

 なんといっても特徴的なのは、リクルーティングサイトに多く見られる、作為的な「演出」を徹底的に排除している点です。

 各自が、それぞれのペースで、自分の言葉で質問に答える映像には、バックグラウンドミュージックはまったくありません。個人を取り上げるテレビ番組ではおなじみの複雑なカメラワークや、表情のアップを短くインサートするような編集技巧も、使われていません。

気がついたら248本すべて見てしまいました

 それは、そうした技術のないアマチュアレベルのスタッフの仕事だからではなく、一流のプロが、「あえて」そうした持っている技術に封印をして、作成された動画であることが、きちんと伝わってきます。

 そうでなければ、1つの質問に数分程度の回答という短い映像とはいえ、合計で248タイプある映像クリップを、すべて見ようという気持ちにさせることは不可能です。なにしろ、かなり長いドキュメンタリー映画を1本見るのと変わらないくらいの時間がかかるわけですから。

 また、当然ながら、出演しているのは現場の自衛官たち31人であり、役者ではありませんから、それだけの長い時間、実際の自分とは違う「理想の職業人」を演じるのは不可能です。スムーズにしゃべれないシーンもあります。「はい、台風の中での航海では船酔いがキツイです」と喋るときの本当に思い出して苦しそうになっている姿。「入隊前に父親に反対されて2ヶ月間、まったく口をきいてもらえなかった」と語る女性自衛官。派手さはないのですが、「本当の話をしているな」ということが伝わってきます。

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著者プロフィール

スダシン(須田 伸 すだ・しん)

須田 伸

サイバーエージェント ネットトレンド研究室長/コミュニケーションディレクター。1992年株式会社博報堂入社。CMプランナー/コピーライターとして「ACC賞」「日経広告賞」「消費者のためになった広告コンクール」などの広告賞を受賞。 1998年カンヌ国際広告祭ヤングクリエイティブ・コンペティションに日本代表コピーライターとして出場。2000年にYahoo! Japanに転じてコミュニティサービス担当プロデューサーとして「ヤフー・チャット」を立ちあげ「ライブチャットイベント」では初代「Y! Chat MC」として活躍。2002年より株式会社サイバーエージェントに勤務。同社の企業ブランドを一新する。現在は同社ネットトレンド研究室長。ブログとインターネット広告に関する著書として『時代はブログる!』(アメーバブックス)がある 。「サイバーエージェント/アメーバ」は、2008年度グッドデザイン賞を受賞。



このコラムについて

Web2.0(笑)の広告学

ブログやSNSのように、普通の人がインターネットで気軽に情報を発信するようになったことが「Web2.0」という流行語(バズワード)を生みました。Web2.0の切り口には、技術も、商売も、哲学もありますが、このコラムでは、基本的に「広告」という視点で考えていきます。筆者はテレビ広告業界を経験後、サイバーエージェントに転じ、ネット広告の世界で活躍している須田 伸氏です。

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