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伝統工芸は100年後も生きる資源

  • 若井 浩子

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2008年7月25日(金)

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 「どうかお宅にあります織物やリネン類の伝統柄を記録し保存していただけますよう。そしてその伝統柄を現代の日用の織物、リネンに反映させてお寄せ下さい」。

ヘルシンキ郊外にある「フィンランド工芸友の会」のオフィス。オリジナルデザイン製作のための毛糸も製造している。

ヘルシンキ郊外にある「フィンランド工芸友の会」のオフィス。オリジナルデザイン製作のための毛糸も製造している。

 こんなお願いの手紙をフィンランドの女性画家、ファニー・シュールベルグ(1845-1892)が国内各地の友人に書き送ったのは1879年(日本では明治12年)の春だった。フィンランドはまだロシアの統治下にあり、ヨーロッパはパリを中心にアール・ヌーヴォー開花の時を迎えていた。

 ファニーより一世代若い北欧の芸術家たち(*1)は、“留学第一陣”とも言われるほど大挙してパリに留学し、彼の地の自由で新しい空気を胸一杯に吸い込んでいた。

 当時、北欧諸国では遅れて届いた産業革命の荒波の中、それぞれのアイデンティティーを確立する機運が高まっていた。フィンランド国内ではロシアからの独立と自由への渇望が最大限に膨らんでいたし、ノルウェーはスウェーデンとの連合下から脱しようとしていた。

 北欧はまさに、ナショナルロマンティシズムの季節にあった。

(*1)「叫び」で有名なノルウェーのエドワルド・ムンクや、スウェーデンの国民的画家のカール・ラーション、劇作家のアウグスト・ストリンドベリなど。

「ルイユ・ラグ製作キット」が伝える工芸の魅力

 それから時を経ること128年──現在、ファニーの手紙の翌年の1880年に発足した「フィンランド工芸友の会」は、そのドメスティックな社名に似合わず、先駆的で洗練された手工芸を扱う会社としてヘルシンキを拠点に活動の幅を広げ、世界中に伝統工芸の魅力を伝えている。

手前がルイユ・ラグの製作キット。小さいラグ(約90センチ×120センチ)のキットは約200ユーロ。大きいラグ(約160センチ×200センチ)のキットは約900ユーロ。ラグの完成品の購入価格は、小さいものが540ユーロ、大きいものは3990ユーロという。

手前がルイユ・ラグの製作キット。小さいラグ(約90センチ×120センチ)のキットは約200ユーロ。大きいラグ(約160センチ×200センチ)のキットは約900ユーロ。ラグの完成品の購入価格は、小さいものが540ユーロ、大きいものは3990ユーロという。

 主な商品は「ルイユ・ラグ」というフィンランドの伝統工芸の織物や刺繍入りのリネン(麻)製品など。ルイユ・ラグは、毛足が3センチ程度の独特の織りのラグ(絨毯、壁掛け)だ。(現在一般に“ファジー・ラグ”と称して売られている量産品の毛足の長いラグマットの原形でもある)。これらのラグや刺繍などの商品は、“完成品”ではなく、材料と解説書の入った“製作キット”が売り上げの9割を占めると言う。

 「製作キットが売り出されたのは1930年。もう80年近い歴史を持つ商品です。完成品も揃えていますが、出来上がった製品の販売以上に、手工芸の本質、作る過程の楽しさを伝えていくことに重点を置いているのです。

 キットには必要な材料と作り方の説明書が入っていますから、初心者の方でも時間をかければ美しいラグを作ることができます」と語るのは「フィンランド工芸友の会」(以下略して「工芸友の会」)のイェンニ・ミッコネンさん。マーケティングの担当者だ。

ファニー・シュールベルグの遺志が生んだ定番の絵柄

 「当社は現在、本社にいるのは職人3人を含めた10人。それ以外に国内各地で約150人が営業、企画に携わっています」。実は、ミッコネンさんは大学では工芸デザインを専攻した。「ですから時には新製品のデザインを担当することも。ここでは誰もがクロスオーバーで働いています」。

エリエル・サーリネンが1904年にデザインしたルイユ・ラグ「ローズ」。

エリエル・サーリネンが1904年にデザインしたルイユ・ラグ「ローズ」。

 小さな組織ですから、と笑うが、同社にある伝統柄や技術に関する情報量は膨大で、貴重なデザインの著作権も多数所有している。

 創設者のファニー・シュールベルグは1892年に47歳で亡くなったが、工芸友の会は彼女の遺志を継いで、ルイユ・ラグの発展のため1899年から1904年の間に新柄のデザイン制作に着手している。

 この時期にフィンランドのモダンデザインの開祖、エリエル・サーリネン(*2)や画家のアクセリ・ガレン・カッレラを始めとする著名人がデザインした定番柄は10数種類になる。

 「それらは現在でも変わらぬ人気を持つ主力商品です。サーリネンの『ローズ』(1904年)や、カッレラの『フレイム(炎)』(1899年)はあまりにポピュラーですから、家にあってもデザイナーなど意識していない人も多いのではないでしょうか」(同)。

(*2)ゴットリーブ・エリエル・サーリネン。Gottlieb Eliel Saarinen(1873-1950) フィンランド代表する建築家、デザイナー。当時ロシア帝国領だったヘルシンキで美術の教育を受け、工科大学で建築を学んだ。ヘルシンキ中央駅(1904年)は代表作。後年渡米し、アメリカのアール・デコ様式の高層建築デザインに多大な影響を与えた。息子はミッドセンチュリーの著名建築家、エーロ・サーリネン。

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