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70歳を前に“リアル竜宮城”に挑んだ勇気

~日本生命日比谷ビル/日生劇場(1963年)、東京都千代田区~

2008年9月25日(木)

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*本文中の写真とイラストはクリックすると拡大表示されます。

 今回も東京のど真ん中である。JR有楽町駅から徒歩5分、日比谷公園のはす向かいにある日本生命日比谷ビルは、オフィスと劇場の複合ビル。一般の人には、劇場の名称である「日生劇場」と言った方が通りがいいだろう。

外観

 日生劇場は、所有者である日本生命が、都内の小学生を学校単位でミュージカルに無料招待する「ニッセイ名作劇場」を40年以上行っていることで知られる。もちろん大人が参加できる催しもあるが、オペラやミュージカルが多いので、それらに興味がない人は中を見る機会が少ない。筆者も、昨年夏に取材で訪れるまで、劇場内に入ったことがなかった。

 設計者は村野藤吾(とうご)。建物の外観は、村野藤吾の他の建築に比べるとおとなしめだ。古典主義を独自にアレンジしたような窓回りのデザインは通好みであるものの、道行く人が振り返るほどのインパクトはない。

イラスト

 だが、劇場内に入ってあまりの迫力に目が点になった。ぐねぐねとうねる壁面、天井をキラキラと覆い尽くすアコヤ貝。まるで未知の海底遺跡のようだ。あるいは“リアル竜宮城”か…。壁の陰から人魚や海底人がひょっこりと現れそうだ。

 この建物をより楽しむために、村野藤吾について少し説明しておこう。

劇場内

 村野は1891年佐賀県唐津市生まれ。早稲田大学建築学科を出て、大阪の建築家・渡辺節に師事。1929年に独立した。戦前には大阪の心斎橋そごう(2001年に解体)や山口県の宇部市民館(1937年)を設計して名を馳せ、戦後は広島の世界平和記念聖堂(1954年)や大阪新歌舞伎座(1958年)などを設計した。生涯、大阪を拠点として活動し、1984年に93歳で亡くなった。亡くなるほんの数時間前まで鉛筆を握っていた、という伝説が残る。

 このコラムは「昭和モダン建築巡礼」である。だが、村野の建築をモダニズムに分類すべきかどうかは難しいところだ。彼のデザインは装飾性が強かった。様式主義から脱却し、新たなデザインの創出を目指していた点では同時代のモダニストたちと同じだったが、彼らの直線的でツルッとしたデザインと村野のそれは明らかに異なっていた。活動拠点が大阪ということもあり、前川國男らがリードしたモダニズム運動とは微妙な距離を置いていた。

イラスト/村野似顔

 さて、日生劇場の話に戻る。この建物の工事が始まった時、村野は67歳だった。建築界では既に、押しも押されもせぬ大家である。日本芸術院の会員になり、藍綬褒章ももらっていた。そうした社会的地位にありながら、一歩間違えれば「やりすぎ」「ゲテモノ」と言われかねないデザインに取り組む大胆さ。失敗したら…と考えたら、普通は恐くてできないデザインだ。

イラスト/村野想像

 おそらく村野の頭の中は、「ここにミュージカルを見に来る子どもたちを驚かせよう」という思いでいっぱいだったに違いない。急進的モダニストたちと距離を置いていた村野は、「建築界でどう評価されるか」なんて、はなから気にしていなかったのかもしれない。

 自身の社会的地位を高めるためではなく、客の笑顔のために全力を注ぐ。建築家であれ、ビジネスマンであれ、見習いたい姿勢だ。特に、組織のトップに立つ人にはそうあってほしい。

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「70歳を前に“リアル竜宮城”に挑んだ勇気」の著者

宮沢 洋

宮沢 洋(みやざわ・ひろし)

日経アーキテクチュア副編集長

1967年東京生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。日経アーキテクチュア編集部に配属。以来、建築一筋。現在は日経アーキテクチュアにて「建築巡礼/プレモダン編」を連載中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師