「宮田秀明の「経営の設計学」」

小泉元首相の引退は「プロの引き際」にあらず

美空ひばりや野茂英雄の執着心との大きな差異

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2008年10月3日(金)

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 音楽は最大の不得意分野だ。嫌いなわけではない。この原稿も30年前のカリフォルニアの音楽を聞きながら書いている。でも歌手も曲名もほとんど何も知らない。

 ある日のこと、秘書の女性に聞かれた。「先生、○○知ってます?」
 どうやら歌手の名前らしいが、私は「知らない」と返事した。

 彼女はもう一度口を開いた。「それでは、トキオ知ってます?」
 私の答えは同じだった。そして彼女との会話は途絶えてしまった。

 若い頃から、ニュースと天気予報ぐらいしかテレビを見ない生活スタイルが続いていることの影響が大きい。その私がある日ニュースを見ようとして、代わりに美空ひばりの回顧番組を見てしまった。私もさすがに美空ひばりは知っている。小学生の時、映画好きの母に連れられて彼女の映画を見に行ったこともある。

美空ひばりと野茂英雄の引き際の共通点

 美空ひばりのプロとしての生き様には感動した。家族を失い、健康を害しながら、最後までプロフェッショナルの生き方を貫いた。プロのまま戦死したような人だ。超一流のプロは力のある限りプロであり続けようとするのだ。つらいから引退しようなどと思うことは最初から頭の中で削除してしまっているようだ。

 今年引退した野球界の野茂英雄投手も同じような人だと思う。もちろん全く面識のない方だが、私がアメリカズカップの仕事に携わっていた時、ある米国人経営者が言った。「日本の野茂とアメリカズカップとサントリーウイスキーには感心したよ」。

 20代の会社員の時、会社の仲間が作った草野球チームに所属していた。東京都の中央区野球連盟第4部(一番下のレベル)に属するチームで、私の役割は敗戦処理投手のことが多かった。球は速いがコントロールがダメだった。最悪の時は、2連続三振と3連続フォアボールを繰り返すという具合だった。だから、野球のポジションの中で投手が一番孤独な仕事だということが少し分かる。

 スポーツは体力の限界があるので、死ぬまで現役を続けるというわけにはいかない。しかし、執拗なまでプロの投手であり続けようとした野茂の生き方に感動を覚える人は多いと思う。

 そして小泉純一郎元首相の引退である。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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