「昭和モダン建築巡礼 ビジネスマン必見編」

あえなく解体された“プレキャストの金字塔”

〜栃木県議会棟庁舎(1969年)、宇都宮市〜

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2008年11月6日(木)

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*本文中の写真とイラストはクリックすると拡大表示されます。

 この「昭和モダン建築巡礼 ビジネスマン必見編」も残るところあと2回となった。これまでは、NBonline読者にぜひ見に行ってほしい建物を紹介してきたが、今回は、既に取り壊されてしまった名作を紹介したい。

外観

写真:磯達雄

 栃木県庁の敷地内に昨年春まであった「栃木県議会棟庁舎」である。完成は1969年。1923年生まれの大高正人氏が設計を担当した。以前紹介した「坂出人工土地」を設計した人でもある。構造設計は、大高氏とタッグを組むことが多い木村俊彦氏(1926年生まれ)が担当。木村氏は、以前紹介した「国立京都国際会館」の構造設計者(横山建築構造設計事務所在籍時)でもある。

イラスト

 この栃木県議会棟庁舎は、建築界では“プレキャストコンクリート建築の金字塔”として高く評価されていた。プレキャストコンクリートとは、あらかじめ工場で生産した鉄筋コンクリート部材のこと。工場生産だと仕上がりの精度が高く、同じ部材を繰り返しつくることでコストが安くなる。この工場生産パーツを現場に持ち込んで組み上げ、中に仕込んだ鉄の棒などに張力を加えてがっちり固める。こうした構造形式を、プレキャストコンクリート造と呼ぶ。

イラスト

 栃木県議会棟庁舎は、まず現場打ちの鉄骨鉄筋コンクリート造で大きな柱・梁をつくり、その上にプレキャストコンクリートの小さな部材を架け渡して2〜3階を構成した。さらに細かく言うと、3階は現場打ちの大梁の上に載り、2階はその大梁から吊られ、1階はピロティ(柱で支えただけで壁をつくらず、半屋外にしたスペース)になっている。2階よりも3階のほうが大きいので、シルエットは逆ピラミッド形だ。

 日本の建築界では1950年代後半から60年代にかけて「伝統論争」と呼ばれる議論が盛り上がった。簡単に言うと、モダニズム建築に日本の伝統建築の良さをどう取り入れるかという議論だ。この栃木県議会棟庁舎は、伝統建築とは似て非なるシルエットだが、窓まわりにリズミカルに並ぶプレキャストの部材が、寺院などの古建築を連想させる。最先端の工法なのに日本的──それが“プレキャストの金字塔”と評されるゆえんだ。

イラスト

 今回、栃木県議会棟庁舎を取り上げたのは、そうした建築界での評価の高さももちろんあるが、それよりも、この建物の取り壊しに至るまでのストーリーが、モダニズム建築の現状を象徴しているように思えたからだ。

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著者プロフィール

宮沢 洋(みやざわ・ひろし)

「日経アーキテクチュア」副編集長。1967年東京生まれ。1990年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、日経BP社入社。日経アーキテクチュア編集部に配属。以来、建築一筋。著書に『昭和モダン建築巡礼 西日本編』『同 東日本編』(いずれも磯達雄氏との共著)。2008年9月から日経アーキテクチュアにて「建築巡礼/ポストモダン編」を連載開始。

・建設総合サイト「ケンプラッツ」 http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/
・建築専門誌「日経アーキテクチュア」 http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/NA/



このコラムについて

昭和モダン建築巡礼 ビジネスマン必見編

「日経アーキテクチュア」の人気連載「昭和モダン建築巡礼」の新シリーズが日経ビジネス オンラインに登場。戦後のモダニズム建築、特に高度経済成長期につくられて活躍してきた名建築が猛烈な勢いで取り壊されていくのは「何とも口惜しい」との思いが筆者の中で膨れ上がる。人知れず失われつつある昭和モダン建築の価値に光を当て、その現状を愛情たっぷりのイラストと文章でリポートします。

*イラストは単行本『昭和モダン建築巡礼』に掲載したものを引用しています。

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