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パンチラインなき名演説

フラット化した世界におけるオバマ大統領就任演説の意味

  • 須田 伸

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2009年1月27日(火)

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 人が既にやっていることを、わざわざ繰り返して述べても何の意味もないことは十分承知しているつもりです。それでもわざわざ書くのには、読者の皆さまに何か新しい視座が提示できるのではないか、またこれに関しては自分自身のためにもやっておいたほうがいい、と強く感じるからです。

 前置きが長くなりましたが、今週のコラムではオバマ新アメリカ大統領の就任式でのスピーチを取り上げたいと思います。

 深夜に頑張ってテレビ中継で見た、という方も多いでしょう。今回の就任式は世界中の放送局を通じて、さらにインターネットのライブストリーミングでも視聴され、アポロ11号の月面着陸といった過去のあらゆるイベントの中で、人類史上もっとも多くの人にライブで目撃された就任式になりました(当日のワシントンD.C.の現場がどんな感じだったかは、水野博泰さんの「オバマ演説、盛り上がり8分目の理由」をお読みください)。

 オバマ氏は終始冷静でしたが、ロバーツ連邦最高裁長官のように緊張のあまりからか、オバマ氏の就任宣誓の際に合衆国憲法の中でも最も有名と言われる短い一説を読み間違えるというアクシデントもありました。

 宣誓に続いてのスピーチは、まさに世界中が注目するものでした。約20分のスピーチを聞き終えて、ぼくは「今日のフラット化した世界における名スピーチだ」と深く感動しました。

 それはなぜか? 何が、これまでの名スピーチと違ったのでしょうか?

パンチラインの必要性

 これまでの名スピーチと言えば、古くはリンカーン大統領の「人民による、人民のための、人民の政治」であったり、ケネディ大統領の就任式における「国が何をしてくれるかではなく、国のために何ができるかを考えてください」であったり、キング牧師の「私には夢がある」など、新聞の見出しを飾る「パンチライン」が必ずそこにありました。

 オバマ大統領も、その選挙戦の過程では「Yes We Can」というパンチラインを巧みに駆使していました。

 なぜ、パンチラインが必要かといえば、メディアが、あるいは歴史家が、ある事件や現象を後世に伝えるために、あまたの情報の中から、「これだ!」という象徴的なエッセンスを見つけ出し、それを引用して広める作業を行うからです。

 「で、いったい何があったの?」と聞かれた人が「早い話が、こういうことさ」と、さっと返してあげることを可能にする何かを提示する必要があるわけです。ネットの記事の「見出し」に使いやすい言葉、というと、このサイトの読者の方には分かりやすいでしょうか。

 まもなく放送終了となるNHKの人気番組「その時歴史が動いた」の後半部分で松平定知アナウンサーが「そして、この時、いったい何があったのでしょうか? 今夜のいよいよ、その時です」というくだりで「スパン!」と手短に提示される「切り取られた“真実”」です。

 それは、必ずしも「実際にあったこと、言いたかったこと」とは限りませんし、すべてでもありません。

 よく芸能人がテレビのインタビューなどで、30分以上も自分が出演した映画の話をしたのに実際に番組で放送されたのは私生活のことに関しての10秒程度の部分だけだった、と文句を言っていたりしますが、それは、発言、事件のすべてに付き合うわけにいかないメディアの宿命であり、選ぶとしたら視聴者が一番のぞんでいる部分(たいがいそれは覗き趣味的なものです)になってしまうのです。

 メディアによって、あるいは歴史家によって、そして普通の生活者によって、あらゆる現象は切り取られます。それを逃れることは、誰もできない、というのがこれまでの常識でした。

 だから有能な政治家やスピーチライターは、最初から「ここを切り取るといいですよ」と、いかにもメディアが、歴史家が、生活者が、切り取りたくなるようなコメントを、スピーチの中に入れ込んできました。

 アメリカの政治の世界ではとりわけその傾向は顕著で、テレビニュースの中で切り取られることを意識した「サウンドバイト・ポリティックス」(※サウンドバイトとはテレビ業界の言葉で、ニュースの中で引用される発言やコメントを意味します)を、選挙活動中の演説はもちろん、議会や公聴会の中でも政治家たちが行うことが日常になりました。

 日本の政治家で「サウンドバイト・ポリティックス」の天才だったのは、言うまでもなく小泉純一郎元総理大臣です。

 オバマ氏もまた、選挙期間中は、この「サウンドバイト・ポリティックス」から逃れることはできませんから、その中で生まれたキャッチフレーズ、すなわちパンチラインこそが、「Yes We Can」だったわけです。

みんなが「すべて」を見るから、引用の重要性が低くなる

 ところが、今回の就任演説では、「Yes We Can」は登場しませんでした。
理由は二つあると思います。

 ひとつは、目の前に広がる経済危機の深刻さは、単純に「Yes We Can」というフレーズで片づけられるような甘いものではない、と国民に感じてもらいたかったこと。それは「新しい時代の責任」という言葉でスピーチの中でも述べられていましたが、それに加えて選挙戦から皆が連呼し、ある意味、あの場所でも待ち望んでいたフレーズを封印することで、「不在」によって明示したかったのだろうと見ています。

 もうひとつは、「引用を聞く人、見る人、読む人」よりも、「ぜんぶを聞く人、見る人、読む人」のほうが、今回のこのスピーチに関しては多い、ということを、あらかじめ了解していたからだと思います。

コメント2件コメント/レビュー

オバマ大統領の就任演説は、地に足を付け実務体制に切り替わった証左だと思いました。基本的に選挙中の演説をやや胡散草く感じて見ていた私にとっては派手さがなく好感は持てるものでしたが、同時に、盛り上がっていた支持者にとっては、彼がヒーローではなく政治家であるという現実を見せ付けられたわけで、失望の始まりであろうと思います。(2009/01/27)

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オバマ大統領の就任演説は、地に足を付け実務体制に切り替わった証左だと思いました。基本的に選挙中の演説をやや胡散草く感じて見ていた私にとっては派手さがなく好感は持てるものでしたが、同時に、盛り上がっていた支持者にとっては、彼がヒーローではなく政治家であるという現実を見せ付けられたわけで、失望の始まりであろうと思います。(2009/01/27)

オバマの就任演説についての、全く新しい視座を提示していただけました。この記事に出会えたことを幸運に思います。(2009/01/27)

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