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「非線形」を解かねばならない経済学

科学と技術と数学を取り入れよ

  • 宮田 秀明

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2009年2月27日(金)

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 今度の金融危機で、金融の世界も、経済の世界も非線形な世界だということが理解されただろう。

 以前の記事(「金融クライシスを引き起こしたのは『非線形』」)で、自然現象が非線形であることを解説した。台風の発生も津波の発生も車の周りの空気の流れもそうだ。道路の渋滞の発生は自然現象と社会現象の中間の非線形現象だ。株や為替の商品市場の変化のチャートを見れば、これらの世界が典型的な非線形な世界だということが分かる。

 昭和初期の大恐慌ももちろん大規模で非線形な経済現象だ。しかし、以来80年を経ているが、社会科学と経済学の進歩はゆっくりすぎて、いまだに非線形な現象を制御できないのだ。

 金融商品は2週間で作ることができると言われている。工業製品はいろいろだが、人命をあずかる輸送機器なら4~5年は必要だ。少しでも手抜かりがあれば人命にかかわる事故になるかもしれないため、長い開発期間を要求することになる。

 三菱ふそうトラック・バスのトラック事故は、10年間に100万キロも走行する間に起きてはならない疲労破壊の発生によるものだった。こんな難しいこともクリアできなければ自動車会社の経営者や設計者は刑事事件の被告にされてしまう。

「社会も経済も複雑で非線形なものである」

 2週間で作られる金融商品のかなりの部分は欠陥商品だということが明解になったのが金融危機の1つの側面である。リスクの評価が極めていいかげんで、このいいかげんさが金融世界のデフォルト(債務不履行)を招いたというわけだ。しっかりしたリスク評価を行おうとすれば、金融商品が2週間で作れるわけがない。

 昭和50年代の初めは最初で本格的な造船危機の時代だった。造船会社の優秀な研究者や設計者は次々と造船業から離職していった。

 ある造船会社の研究者から証券会社のシステム技術者に転職した方が私に挨拶に現れた。私の教え子ではない。専門分野が私と近く、彼の学会発表に対して結構厳しく問題点を指摘したのが私だった。彼は言った。

 「造船会社では難しい研究をして、先生にはシゴかれましたけど、証券業界では、もっともっと簡単な数学で仕事できるんです」

 エコノミストの中には、「このようなことは周期的に8年ごとに起こるものですよ」と言う人さえいる。一種の循環論を持ち出して、経済を正しく制御できなかった大失敗を片づけるのは間違いだと思う。

コメント39件コメント/レビュー

事象の抽象化が合理的に行われなければ、コンピューター・シミュレーションによって思いもよらぬ混乱が生じる可能性もある。経済学に科学・技術の手法を取り入れるのは容易ではない。しかし、「人類の知恵の輝かしい歴史は、このことが必ず実現できるという希望を与えてくれる」と、私は信じています。(2009/05/29)

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事象の抽象化が合理的に行われなければ、コンピューター・シミュレーションによって思いもよらぬ混乱が生じる可能性もある。経済学に科学・技術の手法を取り入れるのは容易ではない。しかし、「人類の知恵の輝かしい歴史は、このことが必ず実現できるという希望を与えてくれる」と、私は信じています。(2009/05/29)

私は浪人まで理系。受かった大学も理系ばかりのところ、一校だけ受かった商学部に進み、現在は社会人をしながら、商学の博士課程に通って、経営を勉強しております。そういった私から見た先生の主張は、学問としての非線形数学と経済学の線形数学をウンヌンいっているのではないと感じます。先生のキャリアから想像するに、船の作り方が、旧来の「紙の設計→粘土模型→縮尺模型による実験→いくつかの試作機→実機製作」から、「CADや有限要素法によるシミュレーションといったコンピュータを利用した作り方」に大きく変わったご経験があるからの主張ではないかと思います。コンピュータで大きく変わったのも事実ですが、その変化を起こした大元は、コンピュータの中で計算に利用された「非線形数学」で、そこが重要なのであると。大学などで習う経済学は、コンピュータを簡単に使える時代に生まれたものではありませんから、単純化するため線形(1次関数)まで変換し、大きくモデルを簡略化しており、先生から見れば旧時代の船の作り方以下なのかもしれません。金融工学においても、確率微分方程式を金融商品の取引に流用可能かどうかを検討したに過ぎず、実際はその流用範囲が限られたものであることは、数学に詳しい発案者は初めからわかっていたと、先生は感じられているのかと思いました。しかし、社会はCADや有限要素法よりももっと複雑です。人間には心もあり、直面する現実にどのような感情を抱くのかを非線形数学で予想することは難しいと思います。ただ、私は先生の主張を否定しません。コンピュータがなければCADも有限要素法もなかったわけで、今は難しくても、何かのイノベーションで大きく発展する可能性はゼロではないわけです。この点にこそ意義のあることであり、この不況の中で、経済学に対して新たなイノベーションを起こして欲しいというメッセージが私には伝わってきます。先生のご研究テーマや、学生達も、新しいイノベーションを社会に起こそうという気持ちが感じられます。社会科学対数学とか、理系と文系といった論点ではなくて、社会に変革を起こす技術や社会制度。それが人類の幸福に繋がるもの。今の世界に安住していると、なかなかそういったものを作ろうと人は動かないものかもしれません。(2009/04/10)

宮田先生の記事や一部のコメントは、いわゆる理科系や工学系と言われる方々の視野狭窄や思い込みを余す所無く発揮した論述とお見受けします。金融工学への偏微分方程式の応用のキャッチフレーズのみ捉えて、理論モデルの構築とシミュレーションに拠ってこのような事象の発生を抑制できると。先ず最初に例示として、偏微分方程式で肝臓内の血流の解析が進んだとして、医学の進歩に寄与したのは確かだが、医学全体の進歩とは言えるのでしょうか。次に、市場での経済行為を「売り」「買い」「保留」と単純化させても、その行為を引き起こすファクターは無限とも思えるほど存在する事。しかも、それらのファクターの値は個々に独立して決定される訳ではなく、無数の連関が生じると云う。まぁ、無限に発散する訳ではなく、有限ではあるのですが、こんな条件で適切な理論モデルが得られ、シミュレーションができるのでしょうか? はなはだ疑問です。 最後に、今回の破綻を引き起こしたのは、関係者が全く判らずに突き進んだ為ではなく、判る方々は解っていて仕掛けたものと思われます。(2009/03/05)

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