「宮田秀明の「経営の設計学」」

宮田秀明の「経営の設計学」

2009年5月22日(金)

技術は劣化する

開発能力の喪失を示す米軍の新型艦艇  

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 私は1人で声に出してしまった。
 「ひどい! 最悪の設計だ」

 軍艦や商船のマニア向け雑誌「世界の艦船」の表紙を見た時のこと。米海軍の最新鋭の3000トンの沿海域戦闘艦が全力で航走している写真が載っている。ひどいのはこの最新鋭の軍艦の作っている波だ。

 船の波は主に一番先端の船首と一番後ろの船尾から出る。この船の作る波がひどいのだ。船首からの波も悪いのだが、船尾からの波は許しがたいくらいだ。船は波を作るが、その波を発生させるために馬力が要る。波を発生させなくするよう船の形を最適にしていく技術は「船型学」と言う。

優秀な人材が集まらない分野の技術が劣化

 「船型学」の研究の大本山のようなのが私たちの研究室だ。その研究で、私の3代前の教授は文化勲章をもらい、2代前の教授は文化功労者になった。私も29歳の時にこの研究室のメンバーになって以来、船の波と船の形の関係の研究を続けてきた。

 船型学は30年も続けてきたので、研究の世界でかなり上りつめたのだが、その一方で、船の形を設計するエキスパートになった。だからアメリカズカップの仕事も引き受けたし、最近ではスーパーエコシップという電気推進の内航船の設計を指導し、波を作ることによる抵抗(造波抵抗)を60%減らすことにも成功した。

 この「世界の艦船」のページを開いてみると、米海軍の沿海域戦闘艦の建造中の写真がたくさんあった。どこの設計が悪いのか一目瞭然に分かった。明らかに設計のレベルが低い。私が代わりに設計したとしたら、すぐにエンジンの馬力を20%減らせそうなくらいだ。

 米国では商船を建造するビジネスはほとんどないが、プレジャーボートや軍艦を製造するビジネスは世界トップの規模にあった。だから、米マサチューセッツ工科大学(MIT)やカリフォルニア大学バークレー校などには造船関係の学科があって優秀な学生が集まり、造船造艦の世界へ巣立っていった。

 ところが、ソ連崩壊の前後から、このような学科がリストラされていき、優秀な人材がこの世界へ向かわなくなっていった。そうして、この分野の技術力が急速に劣化した。この流れはますます加速し、冒頭のような、ひどい設計をしてしまうだけでなく、誰もその設計の悪ささえ分からなくなってしまったのだ。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など


このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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