• ビジネス
  • xTECH
  • クロストレンド
  • 医療
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

「非線形」への挑戦で得たもの

経済を含む社会現象も非線形である

  • 宮田 秀明

バックナンバー

2009年5月29日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 重工業企業への入社から2年もたたないうちに、船舶基本設計部船型計画室へ異動になった。流体力学に基づいて船の形を設計し、速力や運動や操縦の性能を最適にするのが仕事だ。大学院で流体力学を誰にも負けないぐらい勉強したことが認められた結果だった。

 飛行機、車、列車、船、すべての動くものにとって空気や水の流れを知り、それをコントロールして最適にすることは大切な設計課題だ。

 あまり知られていないことだが、この中で船の形の設計が一番難しい。船の形を表現した図面の上で鉛筆の線の幅分だけ間違えて、抗力が10%変わることだってあり得るデリケートな世界なのだ。これは船の作る波の特徴が複雑なことが大きい。

 おまけに船の契約は、積載量と速度と燃費でほとんどが決まる。受注のための商談時の企業間競争もこの3点が中心になる。その結果として、完成時の予想速力にはマージンや安全率が許されない。

 予想速力が15.40ノットなのに「15.50ノットでオファーしろ」などという乱暴なことさえなくもなかった。競争に勝って受注するためだ。

試運転で契約速力を下回ってしまう怖さ

 こうして受注すると、約1年後に建造が始まって6カ月ほどで完成し、試運転が行われる。船型設計者にとって一番ハラハラする時だ。何しろ、契約速力を下回ったら、罰金を払わなくてはいけない時もあるし、0.25ノット(時速約0.5キロメートル)以上下回ったら、キャンセルにさえなりかねない。

 船型設計の部署に移籍してからも、私の担当は開発的なものが中心だった。しかし、1年余りたって、ルーチンの仕事である船型設計が回ってきた。

 「3万2000トン型のバラ積貨物船を標準船として開発するので、船型設計を担当しろ」ということだった。どんな仕事もそうだが、急がなければならなかった。1カ月以内に形を決めなければならない。
 
 どんな設計もそうだが、個人の自由裁量に任される部分は少ない。全社標準の設計法とノウハウに従わなければならない。当時の5月の連休に休日出勤して行ったのは、その標準設計を具体化する作業に近かった。実物の50分の1の図面を描くので長さ3.5メートルの船の形を作図する作業が10日間続いた。ヒノキの棒と鉛の重りと製図用鉛筆を使う作業だ。目と腰を酷使する作業でもある。

 そうして設計した標準型バラ積船は「フューチャー32」と命名され、予想に反して1年間に17隻も受注してしまった。あわてたのは私たちだった。どうせそう簡単に受注できないだろうと思って、予想速力を確認する模型実験も行っていなかったのだ。

コメント4件コメント/レビュー

予想以上の結果が得られるなんて素晴しいですね。間違いを認めない人よりも、結果を重んじる人のほうが素敵です。同じ結果を出すのに遠回りしなくてもいいと思います。でも、人の機微に触れる経験や基本は遠回りしても知るべき。基礎知識と経験が一致したとき初めて本当に理解する。本来、義務教育は基礎知識を詰め込む場だと思います。お金や性についても隠すから好奇心から、邪心も生むと思います。悪い面もある、でもこんなに素晴しいだよと。一番教育は親の背中ですよね。子供なんていないけど、胸を張って歩きたい。(2009/05/29)

オススメ情報

「宮田秀明の「経営の設計学」」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

予想以上の結果が得られるなんて素晴しいですね。間違いを認めない人よりも、結果を重んじる人のほうが素敵です。同じ結果を出すのに遠回りしなくてもいいと思います。でも、人の機微に触れる経験や基本は遠回りしても知るべき。基礎知識と経験が一致したとき初めて本当に理解する。本来、義務教育は基礎知識を詰め込む場だと思います。お金や性についても隠すから好奇心から、邪心も生むと思います。悪い面もある、でもこんなに素晴しいだよと。一番教育は親の背中ですよね。子供なんていないけど、胸を張って歩きたい。(2009/05/29)

宮田先生のサイエンスを背景にした工学的アプローチによる問題解決、いつも興味深く読ませていただいております。今回は、船体設計における非線形モデル導入の先駆者としての御苦労、サイエンス領域に踏み込んでの学問の発展に寄与した経緯、感服致しました。また、その成果から、何らかの形で恩恵を受けている一般市民として、厚く御礼申し上げます。その上で、申し述べたいのは、先生の経済学に対する物言いです。経済学が非線形性を扱えずにいて、科学と技術に近づくべきとの。実は、先生の3/27の記事に3/4にコメントしたのですが、御理解いただけなかったようで大変残念です。何方かが指摘しました種々の経済学の理解もさることながら、自然科学と社会科学の本質的な差違を把握していられない点が先生ご自身内の問題ではないでしょうか? それが、経済学を見下している様な物言いを生んでいると見受けますが如何でしょうか? (過去2回の同様な記事を読んだ感想です) 社会科学の重要な要素、人間の意思決定こそ非線形性の最たるものとお考えの事かも知れませんが、過去・現在・未来の多くの人間が同じ数理モデルで与件を変えただけでモデル化できると考えたのでしょうか? 社会を構成する人々の社会的記憶を積みながら変化してゆく連続体の中の振る舞いをモデル化できるのでしょうか? まさか、自然科学の原理を当て嵌め、人間の思考は神経線維の接続構造と化学反応で決定されるから、適切にモデル化できる方法があるとお考えになったのでしょうか? まるで、支点とテコを与えてくれたら地球も動かせると言った人のように。 人間と云うもの社会と云うものを社会学や哲学を通して眺めて観ることをお勧めします。それが、先生の言及する経済よりも経営に対する思考を深めるのではと思う次第です。(2009/05/29)

 「カオス」前世紀に非線形で苦労された方がたくさんいましたが、経済学ではまだだったんですね。(2009/05/29)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

大学、社会で伸びる人材に なれるか否かは、高校の教育環境に 大きく左右される。

溝上 慎一 京都大学高等教育研究開発推進センター教授