「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

2009年6月15日(月)

「地球に優しく」の前に「隣人に優しく」

戸田建設の建設機械アクティブ消音技術「TANC」

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 「アクティブノイズコントロール(ANC)技術」――皆さんどこかで聞いたことがある言葉かと思います。

 ANCとは、「音で音を消す技術」。もともとはスピーカーで有名な米ボーズが、爆音環境下でパイロットなどが使うヘッドホン向けに開発したという技術ですが、近頃では音楽鑑賞用ヘッドホンにも採用されています。

 通常の防音は、吸音材や密閉構造を用いて音が伝わるのをブロックしますが、ANCは「逆位相の音波を発振することで打ち消し合う」というユニークな技術です。逆位相の音波とは、音波の山と谷の部分がちょうどピッタリ逆になった音のことです。

 ヘッドホンのように外界から耳に入ってくる雑音をカットするシーンではお馴染みになってきたANCですが、実は「消音スピーカー」という技術分野があります。ヘッドホンと違うのは、騒音が出てくる場所にスピーカーを置き、それに負けないくらいの大きな音を逆位相にして吹かす点です。

 逆転発想によるこの騒音公害の防止技術。実は大規模な産業設備には既に適用され始めています。例えば煙突です。発電所など大規模のディーゼルやガスタービンエンジンの排気ダクトからは大騒音が出てきます。ダクトと言っても口径がメートル単位の大きな煙突です。この筒の中に強力スピーカーが仕込まれてあり、出口から出ようとする音波を中和しているのです。音が鳴っているのに鳴らなかったことにしてしまう技術…。なんだか魔法のようです。

戸田建設技術統轄部技術企画部企画課の半田雅俊課長(右)、技術研究所施工技術チームの鈴木信也氏(写真:小久保 松直)

 今回はこの魔法の消音スピーカーを身近な生活シーンに持ち込んだお話です。お話を伺ったのは戸田建設技術統轄部技術企画部企画課の半田雅俊課長、技術研究所施工技術チームの鈴木信也氏です。

 この中堅ゼネコンの研究陣、街の建築工事現場から出る嫌な音を“出なかったことにする”装置を開発されました。その名も直球で「戸田式アクティブノイズコントロール(TANC、タンク)」。外観的には、写真のようにパワーショベルなどの建機や重機のディーゼルエンジンの排気ノズル部分にマイクとスピーカーが付設されたものです。

工事現場から出る嫌な音を音で消す「戸田式アクティブノイズコントロール(TANC)」。上部にマイクがある

逆位相の音を出して騒音を消す

重機にTANCを取り付ける位置

 工事現場からは多種多様な騒音が出てきます。これを音の高低で分類すると、高い周波数の音は、防音パネルや防音シートで結構取り除くことができます。現場の周囲を覆うパネルボードは、安全目的以外に防音壁としても機能しています。

 ただし100ヘルツ以下の低い音になると、パネル材で吸収しにくいばかりか壁の裏側に回り込む性質があって、長年、近隣住民に迷惑をかけてきました。

 TANCはこの低周波の騒音を消すために開発されたシステムです。どれくらいの効果があるのか気になるところでしょう。

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)


このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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