「川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」」

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

2009年7月13日(月)

クルマがあなたの運転を査定する時代に

ホンダ「インサイト」エコ運転から「葉っぱのある生活」が見える

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 早いもので今年も下半期に入りました。上半期のヒット商品と言えば、まず筆頭格にホンダのハイブリッド車「インサイト」を挙げて皆さん異論のないところと思います。速攻でモデルチェンジしたトヨタの「プリウス」に逆襲され、話題の半分を持っていかれましたが、トヨタの独壇場だった市場に真っ向勝負を仕掛けた功績は高く評価できます。

 インサイトの機構や性能に関する論考は各所で語られていますので、本コラムでは少し違った視点で分析をしたいと思います。お話はホンダのインサイト開発担当者である関康成主任研究員(四輪R&DセンターLPL=ラージ・プロジェクト・リーダー)に伺います(関連記事「開発者が語る『インサイト』のインサイドストーリー」)。

ホンダのハイブリッド車「インサイト」
ホンダ「インサイト」開発担当者の関康成主任研究員

燃費がいいだけでなく、革新的な概念を盛り込んだクルマ

 インサイトが提案した革新的な概念を2つ取り上げます。1つ目は「エコアシスト」。内容はご存じの方もいるでしょうから、簡単に説明します。まず、運転中のアクセルやブレーキの操作ログを計測して、コンピューターが燃費走行の状況をモニターに色で表示して低燃費運転に導く「コーチング機能」があり、次にその結果を「エコドライブ度」という評価でレベル分けしてリーフ(葉っぱ)の数で表示する「ティーチング機能」があります。さらには、お任せコース的に車が自動的に燃費優先の制御を代行する「ECONモード」まで備わっています。大きくこれら3つの機能をもって「エコアシスト」と呼んでいます。

コーチング機能 (アンビエントメーター/エコドライブバー)
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 自分の乗り手が良いドライバーかどうかを“車ごとき”が査定しても許される時代なんですね……、などと感じるのは旧人類なのでしょう。テレビゲームに慣れ親しんだ世代には、自分の操作技量がマシンに評価されること自体に抵抗がありません。また、カーナビによる音声案内もマシンにガイドしてもらうことへの敷居を取り払ってくれています。ウェブではアマゾン・ドット・コムの知らしめたレコメンド機能が広がり、携帯電話界では自動コンシェルジェサービスにまで進化しています。今や生活のあらゆるシーンで、機械がガイドや評価をしてくれるようになっています。

 もはや飼い慣らされつつある私たちです。もともと日本人はマシンや技術にあっさり身を委ねる傾向があると言われます。ギアシフトのオートマ化やカーナビの普及が最も進んでいるのは我が国です。機械とは人の下にあり、常に管理すべきものととらえる西洋的な価値観とは異なり、あっさりパートナーになり得る感覚とは、八百万な擬人化の世界観から来るものなのでしょう。

 現にこのエコアシスト、米国市場では「ティーチ」とか「コーチ」という上から目線な表現が受け入れ難いということが事前調査で判明したため、「フィードバック・ファンクション」と名を変えて“ロボ感”を隠しています。大らかなアメリカ人も機械には意外とコンサバなのですね。

 一方で、いまだにマニュアル車が主流の欧州では、もっと強硬な抵抗があるのかと思いきや、逆に環境問題には敏感なことが幸いして、「環境負荷低減という重大な目的ならば、これは正しい解である」と解釈をするアナリストが多く、感性よりは理性の力であっさり受け入れられそうだということです。

ティーチング機能 (生涯成績表示/ステージ毎の「リーフ(葉)」の成長)
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 私は、このエコアシスト機能の中でも特に、ドライバーの運転技量を評価するティーチング機能に新しさを感じます。必要以上に加速しては信号では急減速してという脈動幅の大きい運転はガソリンを浪費しますが、そのような“ギッコン・バッタン”な運転をすると“下手くそ”と判定されて「葉っぱ」がもらえません。高得点を得るのにスムーズな走行を心がけることになり、次第にエコなドライビングが身につくというものです。

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著者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)


このコラムについて

川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉をひもといていきます。

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