「クロサカタツヤのケータイ産業解体新書」

エリクソン、ノーテル“強奪”の勝算

米国の強化と中国の誤算、そして矛先は日本?

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2009年7月30日(木)

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 スウェーデンのエリクソンが、カナダのノーテルネットワークスから無線通信関連の事業資産の一部を買収すると7月25日に発表した。同社のプレスリリースによれば、ノーテルのキャリアネットワーク部門が北米で展開するCDMAとLTE(Long Term Evolution=ロング・ターム・エボリューション)技術関連事業を、11億3000万ドル(約1000億円、負債を除く)で取得するという。

 ノーテルは、昨秋に世界を襲った金融危機のあおりを受けて、2009年1月に経営が破綻。カナダと米国で破産保護を申請し、事業ごとの売却を進めていた。今回エリクソンが取得する事業資産については、フィンランドのノキア・シーメンス・ネットワークスが6億5000万ドル(約600億円)で買収するというニュースが6月に流れていたが、その倍近い金額を提示し、横から奪い取った格好である。

 資本市場の末席で仕事をしている立場からすれば、合意しかけていたところに、いきなり横から現れて倍近い札束を積み上げるというあたり、正直「デューデリジェンスもへったくれもないな・・・」という感もあるが、エリクソンとしてはとにかく何としても手に入れたかった(そしてノキアシーメンスの手には渡したくなかった)ということなのだろう。

 あたかも映画のワンシーンのような荒っぽい動きである。しかしこれは映画ではなく、現実のビジネスの話だ。ということは、今回のような展開に至った、それ相応の理由や事情があるはずである。

 実際、筆者には、今回の買収劇によって、LTEと中国市場という、エリクソンが抱える2つの苦難が、浮き彫りになったように見える。そしてそれは、日本のケータイ産業にも少なからず影響を与える可能性がある。

「世界初」、でもパッとしないLTE

 まずLTEについて。今回の動きからも分かるように、エリクソンはLTEに相当本気だ。それも、単に自分たちが手がけて担いでいるから、というレベルではない。おそらく、通信機器(基地局)ベンダーであるエリクソンとしては、10年に1度しか訪れない技術の世代交代期という最大の商機を絶対に逃してはならない、と一戦必勝の意気込みなのだろう。

 その中でも北米は重要なマーケットである。市場規模が大きいというのはもちろんだが、LTEの導入に関しては、米国のベライゾンが2010年のサービス開始を目指しており、「世界初」となる可能性が高い。LTE陣営の実質的な“ドン”であり、同技術を世界的に力強く推進するエリクソンにとっては、死守を義務づけられた目下の最重要市場なのである。

 しかし、そのLTEが、率直に言ってどうもパッとしない。2010年と言えばもう来年の話だが、かつて2001年に世界に先駆けて3G(第3世代規格)サービスを開始した日本のように市場が盛り上がっているとは、お世辞にも言えない。前回、「3Gケータイでババを引かされた日本」と書いたが、LTEに関してはババ抜きというゲームにさえなっていない様相だ。

 理由はいくつかある。まずLTEのような高度な通信サービスは、現時点では先進国でしかニーズが存在しないのだが、その先進国の経済成長が止まった状態で、ニーズが一向に顕在化しない、ということ。世界経済全体が新興国の成長への依存を強めるなか、ケータイ産業も例外なくその変化に飲み込まれているのである。

 またLTEは従来の3Gに比べ新たに大規模な設備投資を必要とするが、金融危機後のマクロ経済の変化は、当然ながら原資の不足も招く。エリクソンをはじめとした欧米の通信機器ベンダーの「十八番」であったベンダーファイナンスというインフラ投資開発手法も、先進国ではそもそもあまり通用しないし、また低成長ゆえに先進国への投資意欲は高まらない。「北米でLTEをやるよ!」と言っても、そう易々とはカネが集まらないのだ。

 LTEが本当に期待通り動くのか分からない、ということもある。次世代データ通信規格として既に先行したモバイルWiMAXは、実はLTEと類似の技術構成を有しているのだが、「言われているほどにはスピードも出ないし、そもそもつながらない」と評価が高くないこともあり、少なくとも技術や資本を見ているプロの世界では「無線技術はやっぱり難しいし、LTEもどうなるか分からない」という認識が一般的だ。

 それに、以前も触れたが、LTEを含む3.9Gと総称される通信技術の多くは、技術特性そのものよりも、利用できる(免許される)周波数帯域の大きさが、速度などのサービス品質に大きな影響を与える。逆に言えば、割り当てられた帯域の大きささえ見てしまえば、例えばLTEよりも1つ下の世代で、設備投資がLTEよりも安くあがる3.5GのHSPA+などの技術と大差ない、ということになってしまう。

 つまり総合的に勘案して、LTEへの投資にジャブジャブとカネが流れるような「LTEバブル」は、残念ながらまだ世界的には起きていない(あるいは起こせていない)のである。ちなみに、日本勢は今回、かつて3Gの時にババを引かされた教訓を生かし、そうした流れを事前に読んでいた。本来ならば新しもの好きである日本の通信キャリアやベンダーが、LTEに関して今ひとつ煮え切らないのは、そうした背景もある。

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著者プロフィール

クロサカ タツヤ(くろさか・たつや)

クロサカ タツヤ 1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。



このコラムについて

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19世紀がヒトとモノ(物質)、20世紀がマネー(金融)のエコノミーだとしたら、21世紀は何か。この質問に対する、有力解の1つは「ビット(情報)のエコノミー」だろう。現実に、中南米やアフリカを視野に入れたケータイの普及という形で、ビット・エコノミーを構築しようと国や企業が動き始めている。「ガラパゴス」日本にチャンスはあるのか。世界で思惑がうごめくケータイ産業の最前線を描く。

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