「クロサカタツヤのケータイ産業解体新書」

政権交代に潜む“不作為の混乱”

見習うべきは米FCCよりも英OFCOM

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2009年9月3日(木)

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 民主党が大勝した。実質的に国民が直接選んだ政権交代として、マスコミはもちろん、家庭や職場のあちこちで、熱気冷めやらぬことだろう。

 そんなところに冷や水を浴びせるのがいかに無粋かは重々承知している。しかし筆者は、今回の政権交代で、少なくともケータイをはじめとした通信行政は、基本的に大して変わらない、と考えている。

総務省の事情と民主党の実行力不足

 変わらない、と考える理由は、いくつかある。

 まず、規制当局である総務省の事情。身も蓋もない言い方だが、今、彼らは通信政策どころではないのだ。その唯一最大の理由は、2011年7月に控えた、テレビ放送の地上デジタル移行。

 すでに多くに知られているように、地デジ移行は予定通りには進んでいない。地デジチューナーを内蔵した薄型テレビは、そこそこ普及したように見える。が、逆に言えば、残っているのは、この先そう簡単にはテレビを買い替えない人たちだ。

 ここにリーチして買い換えを促していくのは、相当な難題である。ケーブルテレビ経由で補助金を付けたり、デジアナコンバーターを格安で提供したり、とあの手この手を尽くさなければならない。総務省の通信・放送分野は、もともとリソースが潤沢ではなく、それだけで実は手一杯に近い状態にある。

 さらに来年当たり、場合によっては民放ネットワークの一角が崩壊するのではないか、という懸念が業界のあちこちで囁かれている。放送外収益を積み増しているキー局自体は無事だったとしても、地方局の多くは、すでに経済的に自立困難な状況にある。真偽のほどは定かでないが、東北地方の某県では、テレビショッピングの商品販売数がヒトケタに終始している、といったお寒い話も、あながち大げさとは思えなさそうな状況である。

 こうした状況で、通信政策の面倒を見ている余裕は、総務省にはない、ということである。実際、先の7月の総務省人事も、事務次官こそ交代したものの、局長以下多くは留任、という体制である。現状の最大課題である地デジ移行に軸足を置き、それ以外には手をつけない人事としか読み取れない。あるいは一部で囁かれている「民主党による幹部職員の首切り」に備えているとも見えるが、いずれにせよ通信行政に当面変化がないのは同じこと。

 そして、そんなあらかじめスケジュールされた大きなイベントや、それに沿って配置された人事・組織編成を、いきなり乗り込んできて、たかだか半年や1年ですべて覆すだけの力量は、現在の民主党にはまだない。

 これは別に官僚の抵抗が云々という話ではなく(民主党自身はそういうレトリックを使うかもしれないが)、通信事業者や放送事業者といった民間企業との念入りな調整がなければ実現できず、一方で民主党はまだまだ民間とのパイプが極端に細いということなのである。また、政権を奪取した後に霞が関へ切り込んでいくためのフォーメーション作りさえ、現状ではままならない状態と聞く。率直に言って、政策云々以前の問題である。

日本版FCCの非現実性

 一方、総務省の事情を論じると、民主党の政策に注目している方からは「しかし彼らは日本版FCC(米連邦通信委員会)を立ち上げて、総務省から権限を奪おうとしているではないか」との反論をいただくことになるだろう。

 確かに、もし日本版FCCが本当にできるのであれば、総務省の事情などはすっ飛ばして、ケータイを含む通信・放送行政に、ドラスティックに切り込んでいくことができる。そんな夢を見るのは悪いことではないし、中長期的には検討すべきである。

 しかし、民主党が日本版FCCという名称を持ち出してきた時点で、残念ながらこの政策は現実味に乏しい、と判断せざるを得ない。理由は簡単で、日本と米国では、通信・放送政策の前提となる経済社会システムや地理的特徴などの環境が、全く異なるからだ。

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著者プロフィール

クロサカ タツヤ(くろさか・たつや)

クロサカ タツヤ 1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。



このコラムについて

クロサカタツヤのケータイ産業解体新書

19世紀がヒトとモノ(物質)、20世紀がマネー(金融)のエコノミーだとしたら、21世紀は何か。この質問に対する、有力解の1つは「ビット(情報)のエコノミー」だろう。現実に、中南米やアフリカを視野に入れたケータイの普及という形で、ビット・エコノミーを構築しようと国や企業が動き始めている。「ガラパゴス」日本にチャンスはあるのか。世界で思惑がうごめくケータイ産業の最前線を描く。

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