「宮田秀明の「経営の設計学」」

「思い込み」に安住する怖さ

いかにすれば脱常識・脱低迷が果たせるか

バックナンバー

2009年10月2日(金)

1/3ページ

印刷ページ

 読者の皆さんが「これが正しい、これが常識だ、このビジネスはこのような仕組みなのだ」と信じていることが、実は単なる思い込みかもしれないと言われたらどう思われるだろう。

 思い込むことは怖いことなのだ。

 『学士会会報』平成21年9月号に「思い込みの怖さ」という記事を書いたのは、九州大学前総長の梶山千里先生だ。梶山先生には一度だけお会いしたことがある。MOT(技術経営)の会議の席だった。

 「非常識を常識にするのがイノベーションであり、本当の研究開発だ」

 このことを本当に理解して下さっている方である。その記事では、私の研究にも言及していただいた。私が30歳の時、船の波の研究者が思い込んでいた「船の波は線形である」という理論を覆し、「船の波は非線形なのだ」ということを発見して証明した研究だ。

 その記事を読んで分かったことなのだが、梶山先生は専門の高分子化学の世界で、私よりももっと若い修士課程の学生の時に、研究界の思い込みを否定する新発見を成し遂げていた。

思い込みに囚われないようにすると、非常識が常識になる

 世間の常識や学会の定説を否定することは難しい。それまでの思い込みに囚われず、新しい世界を切り拓いて進歩することが大切なのだが、昔からの常識を信じて疑わない人々の厳しい抵抗に遭うからだ。梶山先生や私の新発見は、周囲から無視され続け、かなり悲しい日々が続いた。2〜3年ではなかった。ほとんど10年もの歳月が必要だった。

 32歳の時、米カリフォルニア大学バークレー校で開催されていた国際会議で、波を専門分野とする長老格の日本人教授は研究発表の中で、私の研究に言及してこう言った。「It is misunderstanding」。

 それでも、自然科学の世界はまだいいと思う。結局、正しいことは認められ、その正しいことがイノベーションを実現し、社会へ普及していくケースがある。実際、船の波が非線形だということが明らかになってから船の形の設計が変わった。そして、その新しい形の船の燃料費が5〜6%節減されたので、学会で認められる前に産業の現場で新技術が受け入れられたのだ。

 非常識が常識になるのが科学技術の進歩だ。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント10 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内