「日本を救う夢の技術」

あの鼻が曲がる異臭を「バラ」に変える

「匂い」の仮想現実に取り組む花王の研究

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2010年1月5日(火)

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 「日経ビジネス」では2010年1月4日号で「日本を救う未来の技術」と題する特集をまとめた。その連動企画として、日経ビジネスオンラインでは、識者の意見、注目技術の動向などを掲載する。

 第2回として、「匂い」について研究を進める花王に最新動向を聞いた。異臭を芳香に一変させる魔法のような技術だと言う。


 「汚物に触れるのは構わない。済んだら手を洗えばいいし、手袋をはめたっていいんです。でも、匂いだけはどうしようもない。悪臭には慣れると人はいいますが、到底慣れるものではありませんよ」

 「匂いのイメージというのは鮮烈なので、その匂いを思い出すだけで食欲がなくなる。それが毎日ですから、大変です」

人間はこんなに匂いをまき散らして生きている

 記者が以前、高齢者向け雑誌に所属して「老老介護」(高齢者が高齢者を介護すること)について取材していた際に、取材を受けてくれたある高齢者が口にした言葉だ。60代後半の彼はこうも言った。

 「下(しも)の匂い、入れ歯の口臭、褥瘡などが原因の体臭など。他人の生活のすべてに付き沿うようになって、人間とはこんなにも匂いをまき散らして生きているのだと知りました」

 彼は被介護者である実母を嫌っているのではない。むしろ傍目には、献身的に過ぎるようにすら見えた。それでも、不快な「匂い」とは人をここまで悩ませるのだ。匂いというものがQOL(生活の質)に直結する感覚であることを改めて思い知らされる経験だった。

 日用品大手の花王は、この「匂い」について研究を進めて成果を生みつつある。もし実現すれば、彼は介護時の匂いに悩まされることがなくなるかもしれない。

 その技術の目指すところは、まるで魔法のようだ。――「悪臭」を「芳香」に変える。

匂いではなく、「匂う感覚」を制御する

 日用品メーカーは、人間の生活と密接な関わりを持つ「匂い」に対して、様々な商品を生み出してきた。

 代表的なものは、強い香りを別に発することで悪臭を覆い隠すことを狙う芳香剤。あるいは匂いの原因となる細菌類などを除去することで発生源を断つ殺菌消臭剤。悪臭の原因となる空気中の物質に化学変化を起こして、無臭のものに変えるタイプの消臭剤もある。

 ただ、いずれの方法も完全ではない。

 まず芳香剤は、悪臭を消し去るわけではない。いわば、嗅覚を誤魔化しているに過ぎず、強い異臭には効果が薄い。強い悪臭に対抗するためにより強い香料を用いれば、その香料自体が人によっては異臭と感じられるものになってしまう。

 また、消臭剤の類は、その仕組みゆえに、特定の物質を原因とする悪臭には効果が高いが、どんな悪臭にも利く万能の消臭剤というものはない。「利きにくい匂い」という弱点が、どうしてもできてしまう。

 花王が進めている研究は、従来のこうした「匂い」に対するソリューションとはまったく別のアプローチによるもの。そこには発想の転換があった。すなわち、匂いそのものを消すのではなく、匂いを感じる感覚を制御する、という方法だ。

「臭わない」だけでなく「芳香」と感じさせる

 ヒトの鼻腔内には、においをかぎ分けるセンサー(嗅覚レセプター)を持つ細胞が数百種ある。このレセプターに匂いの原因となる物質が結合して信号を脳に伝えている。

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著者プロフィール

池田 信太朗(いけだ・しんたろう)

日経ビジネス記者。



このコラムについて

日本を救う夢の技術

 今、日本人は「未来」を失いつつある。経済はデフレの波に襲われ、財政は火の車、年金は崩壊の危機にある。世界第2位の座を守ってきたGDP(国内総生産)も中国に抜かれる。少子高齢化が劇的に進行し、人口は減少の一途をたどる。聞こえてくるのは確かに暗い話ばかりだ。
 しかし、よく考えてほしい。我々には培ってきた技術がある。蓄積された膨大な金融資産がある。これらの蓄えを、再び未来を語れる社会を作る投資に回せるか。期限は、財政破綻が現実味を帯び始める2015年。残された時間は少ない。

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