去る1月29日、NTTドコモの山田隆持社長の会見の中で、同社が米アップルの新製品iPad(アイパッド)向けに、「SIMカード」の販売を検討していることが明らかになった。
現時点では「検討中」というステータスだが、実現すれば今後のケータイ産業の構造に大きな変革を促す一石となりうる。しかも、先進的な取り組みを続けるソフトバンクモバイル(以下、SBM)ではなく、保守本流と見なされるNTTドコモによる取り組みの可能性とあって、私にも国内外の業界関係者や投資家から問い合わせをいただいた。
そこで今回は、SIMカード販売がケータイ産業にもたらす影響について、改めて状況を整理しつつ、考察してみよう。
まず本論に入る前に、ご存じの方も多いとは思うが、念のため、基本的な事実関係をさらっておく。
今回対象となっている端末は、先にアップルが発表したiPadである。それ自体はあちらこちらで報道されているので詳細な説明は割愛するが、見た目はふた回りほど大きなiPhone(アイフォーン)である。
この端末で期待されているのが、電子書籍である。電子書籍とは、文字通りネットを介して書籍や雑誌をオンライン配信するサービスのこと。既に米アマゾンのKindle(キンドル)が事業を開始しており、日本のメーカー各社も端末販売を準備している。
アップルはiPadの発表と同時に、同社の電子書籍流通プラットフォーム(アプリケーションとオンラインショップの複合)であるiBooks(アイブックス)を発表し、電子書籍市場への本格参入を表明した(ただし日本や英国などではまだ未発表)。iPod(アイポッド)とiTunes Store(アイチューンズ・ストア)で世界の音楽配信市場でデファクト支配を果たし、またiPhoneでモバイルビジネスに新風を吹き込んだ同社だけに、発表前から話題を呼んでいた。
iPadがSIMロックフリーというインパクト
そのような意味でも、単なる大きなiPhoneではないのだが、ケータイ産業の側面からも大きな違いがある。それは、iPadが「SIMロックフリー端末」としての提供が予定されているということ。もちろん最終的に製品がリリースされるまで確定的なことは言えないが、SIMロックを前提とし、日本ではSBMからの独占販売となっていたiPhoneと比べ、大きく異なることになる。
ところで、このSIMロック(あるいはSIMロックフリー)という言葉、ケータイ産業に関心のある方には馴染みがあるだろうが、一般にはよく知られていないことだろう。そしてそれ故に、このSIMロックの有無がケータイ産業にどのような意味を持つのかも、なかなか理解されにくいところである。
SIMをごく簡単に説明すると、契約者の名札のようなものである。具体的には、ケータイネットワークが、端末の電話番号を特定して電話として機能させるために、固有のID番号が書き込まれたICカードである。
お手元に3Gケータイがあれば、裏ぶたを開けて見ていただきたい。電池のさらに奥の方に、小指の先ほどの小さなカードが差し込まれているのが見えるはずだ。これがSIMカードである。
このカードは脱着が可能で、端末の機種交換の時に古い端末からSIMカードを抜き、新しい端末に差し込む作業を目にした(あるいは自分で行った)方もいるだろう。これを差し替えることで、どのメーカーの端末であってもSIMカードを提供している通話サービスを利用できるという環境が整うという仕組みになっている。
しかし日本では一部の例外を除いて、原則としてこうした使い方ができない。つまり、NTTドコモで買った端末に、SBMのSIMカードを差し込んでも、SBMのサービスを利用することはできない。もちろん逆もまたしかりである。これは、端末側で特定のSIMカード以外を利用できないように制御しているからである。この制御こそが「SIMロック」である。
このSIMロックを解除し、端末と通信キャリアの規格や周波数がマッチさえすれば、どの通信キャリアが提供するSIMカードでも利用できるようにしたのが、SIMロックフリー端末である。今回iPadは、このSIMロックフリーを選ぶ、ということになる。
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1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。







