1月の半ば。この時期は学生たちがエネルギーを最大限に発揮して卒業論文や修士論文に取り組んでいるので、学生にもこちらにも余裕がない。また一方で、最近の学生は飲酒やコンパから離れてきているので、なおさら、学生と飲む機会は少なくなった。
それなのに、1月半ばの金曜日の夜、たまたまいた数人の学生と研究室で缶ビールを飲んだ。
就活中の修士課程1年の学生も2人いた。だから話題は就職のことになった。
「先生、どの会社がいいですか?」
私は真剣に考えて、10ほどの企業名を挙げたのだが、先が続かなかった。日本のトップクラスの優れた人材をしっかり育ててくれそうな企業があまりにも少ないのだ。
20代の若者でも産学連携プロジェクトを推進できる
東大工学部のシステム創成学科ができたのは10年前のこと。その中の知能社会システムコースは特にユニークなものだ。英語名は「Program for Social Innovation(略称:PSI)」という。「理系と文系の垣根を取り外した教育を行う」「日本のリーダーを育てることを目標にする」。こう公言して学生を集めた。こんな青臭いかもしれない宣伝文句に20歳の若者が応えてくれるのか半信半疑だった。
しかし、そんな心配は杞憂だった。開設当初から優秀な学生が殺到した。東大では教養課程から専門課程に進む過程で厳しい進学先選びの競争があるのだが、知能社会システムコースはほとんど最難関の進学先になった。以来10年間その評価は変わっていない。
彼らが4年生になって私たちの研究室へ来てから行うのは卒業論文の研究で、大学院に進学すれば修士論文の研究を行うことになる。私たちの研究室では、それらの研究テーマのほとんどが産学連携テーマである。研究のための研究、学会発表で実績を作ることが目的のような研究は行わないことにしている。本当のリーダーになる人材を育てるためには、現実の経済活動を変革するモデルを創造する経験を早い時期からすべきだと思ったからだ。企業経営、環境ビジネス、物流・交通・小売業と、守備範囲は自分でも驚くほど広い。
10年間、このような教育と研究と社会貢献の3つを同時に実現するプロジェクトを学生たちと一緒に行ってきて分かったのは、強いリーダーがいれば、20代の若者であっても、世界トップクラスの先進的なプロジェクトを成功に導くことができるということだった。
新シンクタンクのお客様が日本企業や政府だとすると、日本の風土の呪縛がやはり大きくのし掛かってくると思います。元々SRIを参考に誕生したN社等も、初志のままではお客様から仕事が取れず、今の姿になってしまったのでしょう。 例えばNext11諸国をお客様にしたり、ムハマド・ユヌス氏のようなソーシャル・ビジネスと関連を持たせたりという所に、活路は見いだせないでしょうか?(2010/02/16)