「宮田秀明の「経営の設計学」」

「安全への検証」と「技術者の情熱」はあるか

トヨタのリコール問題で見えた輸送機器設計の怖さ

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2010年2月26日(金)

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 トヨタへの信頼が揺らいでいる。日本でトップレベルの経営をしている優等生企業だし、大きな利益をあげていたし、日本の産業の国際競争力を力強く支えていた企業だったから、トヨタの危機は日本の産業の危機と言う人までいるようだ。

 しかも欠陥がブレーキとアクセルという最も信頼性が要求される装置だから、なおさら心配だ。プログラムにミスがあるとされるABSというのはアンチロックブレーキシステムの略称である。最短距離で車を安全に停止させるためにブレーキを電子制御する装置だ。

 濡れた路面で急にブレーキを踏むと、タイヤの回転は止まるのだが、そのまま車ごと滑ってしまうことがある。こんな危険な動作を防ぐ装置がABSだ。

 もちろん昔の車にはこんな高級な装置はついていなかった。それどころか4つの車輪についているブレーキの利き方がまちまちで、ブレーキをかけたら車が別の方向を向いてしまうことさえあった。私も学生時代、自動車部に所属していたので、こんな危険な経験を2回ほどした。その時運転していたのは、いすゞの乗用車ベレットとマツダの2トントラックだった。

 ブレーキ制御装置という安全に直結する部分に欠陥があったとすると、大変厳しいミスと言わざるを得ない。仮に1秒作動しなければ、時速40キロで走っていても、約10メートル空走してしまう。

人命に大きくかかわる輸送機器の設計

 経営も設計も“Good at everything, best at a few”でなければならない。どこにも悪いところがあってはならないが、その上で競争力を持つように他社に比べて優れたベストがなければならない。

 商品設計の場合に限っても、GoodとBestの意味するところは随分違うものだ。建物なら自重と地震に耐えるように設計すればよい。だから技術的には最高レベルでなくても一応の設計はできるし、大きな地震に遭遇する確率は低いから、仮にBadな設計であっても露呈しないまま終わることさえある。パソコンは簡単にトラブルを起こす。私の使っていた2台のデスクトップ・パソコンは2月に同時に壊れた。購入後2年しか経っていないのにだ。データの引っ越しや修復の作業によるロスは大きい。早く10年使えるパソコンを作ってほしいと思う。

 最もBadが許されないのが航空機、船、車、列車などの輸送機器である。人命を預かる工業製品だから当然のことではあるが、このことによって設計法や開発法は他の工業製品とは異なったものになることはあまり理解されていないかもしれない。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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