去る3月12日、国内PHS最大手のウィルコムの再生支援計画が公表された。
当初は、昨年9月より進められていた事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を活用した私的整理による再生を目指していた同社だが、おそらくは金融機関をはじめとするステークホルダー(利害関係者)との折り合いがつかなかったのだろう。結果として会社更生手続開始の申し立てを、先月18日に東京地方裁判所に行い、法的整理の道を選ぶことになった。
本件については、実質的に日本で初めて大手通信キャリアが整理に入ったという意味において、日本の通信産業全体にとってエポックメーキングな出来事であった。また、同時期に同じようなスキームで日本航空(JAL)の経営危機が表面化したことなどから、一般的にも注目を集めた。そのため、昨夏の事業再生ADRへの着手以来、様々な憶測や噂が飛び交った。
とりわけ、この1カ月の間、資本市場が注目していたのは、会社更生手続きを申し立ててから実際に開始されるまでの期間が、異例とも言えるほど長かったということ。会社更生法という再建型倒産の手続きであれば、通常は申立から開始までの期間は、取引先などへの影響を考慮してできるだけ短くするのがセオリーであり、裁判所もそのように配慮するのだが、今回は3週間程度を要することとなった。
おそらくはステークホルダー間で熾烈な条件交渉が行われていたのだろう。結果として、スポンサーとして名乗りを上げたアドバンテッジパートナーズとソフトバンクは、100億円程度の破格の安さと、1500億円近い債権者からの金融支援(実質的な借金棒引き)という好条件で、16万局に及ぶ基地局と500万人弱の加入者、そしてXGP(次世代PHS)という、ウィルコムの事業資産を手に入れることになった。
中でも業界関係者が大きく注目するのが、PHS基地局資産の行方と次世代PHSの免許である。一般にはなかなか理解しにくいところだが、この2つはケータイ通信キャリアの要諦でもあり、また悩みの種でもある。実際ウィルコムも、加入者を伸ばして黒字を計上していた中での法的整理であることを考えれば、この2つに大きく振り回されたことは、想像に難くない。そこで今回は、基地局資産と免許について、改めて整理したい。
基地局はケータイの生命線
基地局という言葉自体は、一般の方でも馴染みがあるだろう。そして都市部では、ケータイ基地局のアンテナを見たことのない方は、おそらくいないのではないだろうか。自分は見たことがない、と思われる方でも、実際にはケータイの基地局がどんなものか分からないというだけで、一度気づいてしまえば文字通りの乱立状態であることに気づかれるはずだ。例えば東京の都心部であれば、半径数十メートルに1基程度は、どこかの通信キャリアの基地局が敷設されている。
ここでケータイ通信の基本構造をおさらいすると、まずケータイ端末は無線機の1つである。しかし、いわゆるトランシーバーのように、互いが直接電波を送受信することで通信し合う無線機ではない。東京から大阪にケータイで電話をかける時、両者の端末同士が直接電波をやり取りしているわけではない、ということである。
基地局とは、このケータイ端末が直接電波をやりとりする相手である。ケータイで電話をかけたい時は端末から基地局に通信を働きかけ、また電話を受ける時には基地局が端末を探して通信する。このようにケータイにおけるすべての通信は、原則として基地局を介して行われる。この基地局がバックホールと呼ばれるネットワークで結ばれているから、東京から大阪へ(あるいは世界へ)、ケータイで通信ができるのである。
従って、ケータイにとって基地局は、まさしく生命線となる。基地局が存在しなかったり動かなかったりしていれば、ケータイ端末は通信する相手を失う。この場合、通信サービスは全く利用できず、端末も通信機としては全く役に立たない。いわゆる「圏外」の状態である。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。







