2010年4月下旬から290の公益法人を対象とした「事業仕分け」の第2弾が始まる。
内閣支持率は約36%にまで凋落(3月26〜28日、日本経済新聞とテレビ東京共同世論調査)、報道で「政権末期」という言葉さえ使われるようになった今、「事業仕分け」で支持率の回復を狙っていることは言うまでもない。世論調査では「政策を評価する」とした人はわずか29%。その少ない評価者が評価理由にあげた第一が「事業仕分け」に代表される「行政のムダ遣い削減」だったからだ。
しかし、2009年11月に行われた「事業仕分け」が、「税金のムダの削減」という目的遂行の方法とし望ましいものであったのかどうかの具体的な検証や評価は行われていない。「事業仕分け」はこれまでの政権ではあり得なかった初の取り組みで、国民の期待も大きかった。そして、今後も民主党が目玉政策としようとしていることは明らかだ。だが、その手法や結果に対しては、大きな賛否両論が巻き起こった。だからこそ、その検証や評価をできるだけ早く、そしてじっくりと行うべきなのである。
そこで、前回に引き続き「事業仕分け」の科学技術分野では何がもたらされたのかを見ていくことにする。
2009年11月13日、行政刷新会議の「事業仕分け」で第3ワーキンググループが取り上げたのが、「事業番号3-18(1)大型放射光施設SPring-8」だった。山陽新幹線相生駅の北約20km、兵庫県・播磨科学公園都市にある大型放射光施設だ。施設者は独立行政法人理化学研究所で、その運転・維持管理や利用促進業務を財団法人高輝度光科学研究センターが担っている。
私は、1997年の施設完成直後から日本の科学力の象徴として何度も週刊誌連載「メタルカラーの時代」で取り上げてきただけに、その「事業仕分け」を固唾をのんで見守っていたが、結論は「2分の1から3分の1程度予算の縮減」という厳しいものだった。SPring-8の1000人を超える職員たちの受け止め方は深刻で、これで「SPring-8が止まる!」と愕然としたという。
用途は学術から産業、犯罪捜査まで
SPring-8は「放射光」と呼ぶ極細で超強力な電磁波を試料に当て、その分子や原子構造を見る装置だ。健康診断でも使うX線装置と似ているが、SPring-8のモノを見る能力(「光」の強さ)はそのおよそ10億倍。世界一モノをよく見ることができる装置なのである。しかも、通常のX線装置では静止画を撮影するが、SPring-8はパルス照射し続けることが可能なため連続した画像データが得られる。超高感度超精密透視ムービーカメラと言ってよい。
ある物質が高温高圧で変化していく様を、原子レベルで知ることもできる。地球の地下600km、マントル遷移層の20万気圧、1400度という環境での地球内部の姿を世界で初めて明らかにしたのもSPring-8だった。ここで得た成果は、世界で権威を持つ科学雑誌『SCIENCE』『NATURE』などの表紙を幾度も飾ってきた。
そのスケールは、訪ねた者を圧倒する。
兵庫県から提供された敷地面積は141ha、甲子園球場の約36倍、東京ディズニーランドの約3倍に相当する。放射光を得る主装置は、小高い山の周りをぐるりと取り囲むリング(蓄積リング棟)。その円周長は1436メートルもあるため、施設内の移動には自転車が使われているほどだ。
このリング内を世界最高の8GeV(ギガ電子ボルト)という高エネルギーを与えられた電子が光速の99.9999998%で回転しており、放射光を発し続ける仕組みだ。これほど巨大でありながら、施設は信じがたい精密さで作られている。完成直後、円周の大きさがごくごくわずか変動することが分かったが、理由は見当たらなかった。後になって、月の引力で地球が引っ張られて起こる岩盤のズレが円周の誤差の原因と判明した。これほどの超微小誤差すら制御している装置なのである。
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1947年東京生まれ。獨協大学外国語学部卒。科学技術の現場を伝えた週刊誌連載「メタルカラーの時代」を単行本・文庫本で23冊出版、東京クリエーション大賞受賞。1997年以降、「環業革命」(環境技術による新産業革命)を訴えてきた。阪神・淡路大震災以降、災害・防災もテーマの柱の1つで多くの記事を発表してきた。NHKキャスター(通算7年)、2001北九州博覧祭北九州市館、2005愛知万博愛知県館、国民文化祭2005福井、各総合プロデューサー。JAXA嘱託、福井県文化顧問、日本生態系協会理事、日経地球環境技術賞審査委員、講談社科学出版賞選考委員、北九州マイスター選考委員、計算科学研究機構運営諮問委員などをつとめる。日本文藝家協会会員。『小惑星探査機はやぶさの大冒険』(2010年科学書Best Books1位)のほか『環業革命』『メタルカラー烈伝温暖化クライシス』『賢者のデジタル』など著書多数。







