「クロサカタツヤのケータイ産業解体新書」

「古くて新しい」SIMロック解除という問題

LTE時代を見据えて動き始めた通信キャリア

バックナンバー

2010年4月2日(金)

1/3ページ

印刷ページ

 世の中には、どれだけ経験を重ねても、一向にうまくならないことがある。例えば年度末のてんやわんやもその1つ。確定申告にせよ報告書の納品にせよ、あらかじめ決まっていることなのに、いつも間際にドタバタする。多くの場合は本人の心がけの問題であろうことは、誰しもが知るところ。いわゆる、夏休みが終わる数日前にならないと宿題に手をつけられない、というものである。

 そんなわけで、ちょうど年度明けに更新のタイミングを挟んでしまった本連載も、ものの見事に一日遅れてしまったのだが、何もこの前口上はその言い訳のためだけに綴っているのではない(というわけで読者の皆様、申し訳ありません)。というのは、世の中には「本人の心がけだけではどうしようもない」という問題もあるからだ。

 例えば、世の中の状況が変わってしまったために、かつて提起した同じ問題が違った意味を持ってしまうというケースは、まさしくこれに当てはまるだろう。あるいは以前から問題として理解されてはいたが、いざそれを解く段階になってみると、予想をはるかに超える困難が立ち塞がった、というのもよくある話である。

 枕が長くなったが、このところ巷を賑わしている「SIMロック解除」という議論も、通信産業の末席で仕事をしてきた筆者にしてみれば、こうした「古くて新しい問題」に見えるのである。

SIMロック解除を後押しする2つの要因

 本論に入る前に、改めて今回の顛末についておさらいしておこう。ちなみに、やや予言めいた結果となったが、実は2カ月ほど前の本連載でもSIMロックとその解除が及ぼす影響について、米アップルのiPad(アイパッド)を題材にしながら詳細に触れている(「NTTドコモのiPad接近で起こる新潮流」)ので、そちらをご一読いただければと思う。

 まずSIMとは、ケータイネットワークが端末の電話番号を特定して電話として機能させるために、固有のID番号が書き込まれたICカードである。お手元に3Gケータイ端末があれば、裏ぶたを開けて電池を抜くと、奥の方に小指の爪くらいの大きさのICカードが見えるだろう。これがSIMである。

 このICカードは脱着が可能だ。つまり、抜き差しして利用することを前提としている。そもそもはSIMを発行した通信キャリアのサービス規格が使える端末に差し替れば、どのメーカーの端末であっても通信サービスを利用できる、という仕組みなのである。

 ところが日本では一部の例外を除いて、原則としてこうした使い方ができない。従って、NTTドコモで買った端末にソフトバンクモバイル(以下、SBM)のSIMを差し込んでも、 SBMのサービスを利用することはできないし、もちろん逆もまたしかりである。

 これは、特定のSIM以外を利用できないように、制御しているからである。この制御こそが、今回の議論の対象となっている「SIMロック」である。このSIMロックは通信キャリアの判断で行われているものだが、今回総務省がこの解除を通信キャリアに義務づけるのではないか、との報道が流れ、一気に話題沸騰となった。

 現時点では、本日(4月2日)総務省が、通信キャリアや端末メーカー、消費者団体などを対象とした公開ヒアリングを実施するということが明らかにされているだけで、やや報道先行の状態ではある。ただおそらくは規制当局としてそうした意向を有していることを含んでいるであろうから、やはり検討がそちら側に流れていくであろうことは想像に難くない。

 このSIMロック解除の義務化に向けた検討が進められる背景には、2つの要因がある。1つは国内のケータイ産業構造。高度かつ強固な垂直統合が形成される日本のケータイ産業に対して、競争政策の実現に規制当局は以前から熱心にアンバンドル(分業化)を促進してきた。例えばMVNO(仮想移動体通信事業者)の推進しかり、販売奨励金制度の廃止しかり、である。

 SIMロック解除もこの1つとしてかねてから議論されてきた。実はこの議論自体、今春に急に顕在化したものではなく、既に2007年に総務省が開催した「モバイルビジネス研究会」の中で問題提起されており、しかもその後の議論の結果、2010年(すなわち今年)に結論を出すことが決められていた。すなわちSIMロック解除の議論は、あくまで既定路線の上にある話なのである。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント1 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

クロサカ タツヤ(くろさか・たつや)

クロサカ タツヤ 1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。



このコラムについて

クロサカタツヤのケータイ産業解体新書

19世紀がヒトとモノ(物質)、20世紀がマネー(金融)のエコノミーだとしたら、21世紀は何か。この質問に対する、有力解の1つは「ビット(情報)のエコノミー」だろう。現実に、中南米やアフリカを視野に入れたケータイの普及という形で、ビット・エコノミーを構築しようと国や企業が動き始めている。「ガラパゴス」日本にチャンスはあるのか。世界で思惑がうごめくケータイ産業の最前線を描く。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内