前回の本連載(「『古くて新しい』SIMロック解除という問題」)で触れたSIMロック解除の議論は、連載更新当日の4月2日に行われた総務省でのヒアリングを皮切りに、いまだ盛り上がりを見せているようである。その後、SIMロックフリーでの提供が予定されている米アップルのiPad(アイパッド)が米国で出荷開始し、既に好事家が日本国内にも持ち込んだことで、一般からの注目度も高いようだ。
政策論争としても注目すべき展開が起きた。総務省ヒアリングの後、同省の内藤正光副大臣が、自身のブログでソフトバンクモバイル(SBM)を名指しで批判し、一方のSBMも本件の代表的な論客である松本徹三副社長がツイッター(Twitter)で応酬する、といった前代未聞の事態が発生したのである。掲示板サイト「2ちゃんねる」ではないが、さながら「祭り」の様相が続いている。
結論としては、SIMロック解除を推進する流れは、概ね決まったようである。先の総務省ヒアリングにおいて、各キャリアとも「義務化ではないのなら、消費者のニーズを受けて推進する」という方向で、ほぼ合意が取れたようだ。総務省はこうした意向を受け、義務化というドラスティックな方策までは踏み込まないものの、ガイドライン制定という形で通信キャリアの背中を押していく方針のようだ。
SIMロック解除は「伝家の宝刀」ではない
ところでSIMロック解除の議論を改めて振り返ってみると、総務省は今回解除を推進すべき理由の1つに、端末を含めたケータイ産業の国際競争力という論点を掲げている。すなわち、SIMロックに守られた国内市場で甘やかされた結果、端末ベンダーや通信キャリアなどの事業者の国際競争力が低下したという認識の下、「再び世界に打って出るための荒治療として必要だ」という見解である。
総論として見れば、確かに一理ある議論ではある。なにしろ、通信キャリアを軸に垂直統合された、日本のケータイ産業の産業構造は、他国に比べて強すぎると言えるほど堅牢だ。
仕様策定に始まり、開発やマーケティングにかかるコストの負担、さらには開発成果の知財の共有化など、本来はベンダーが担うべき役割に通信キャリアが足を踏み入れているのは事実ではある。通信キャリアとベンダーの依存関係は、例えば販売奨励金制度が米国にもあるように日本に限った話ではないのだが、いささか行き過ぎ感があるのは否めない。
ただ、SIMロック解除が国際展開に向けた「伝家の宝刀」かと言えば、そうではない。そもそもSIMロックは、ケータイ産業で国際競争力を有する国も含め、海外でも行われている施策の1つである。このことからも分かるように、これを解除しただけでどうこうなるという話ではない。
実際、日本のケータイ産業の国際展開は、既にいくつかの成功事例が出始めているのも事実である。以前の本連載(「『官製不況』転じて、福とできるか」)でも少し触れたNTTドコモのインド進出は、契約数こそ新参者ゆえまだまだこれからではあるものの、純増1位を獲得するなど急成長を続けており、インドのケータイ産業においても注目を集めている。また、5月に北米で発売予定のマイクロソフトのスマートフォン「KIN(キン)」は、報道されている通り、シャープ製である。
このように日本のケータイ産業も、ようやく世界への足がかりをつかみつつある。特に先進国でようやく3Gインフラが整いつつある中で、日本が10年にわたって歯を食いしばりながらサービス開発を続けた経験が、ようやく商機として結実しつつある。
そしてこの動きはこれから3Gインフラの整備が進む新興国で、さらに大きな果実となることが期待される。そう考えるとSIMロック云々は、重要な話ではあるのだが、こと国際展開という文脈においては、あくまで各論の1つと言わざるをえない。
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1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事する。2007年1月に個人事務所を開設。現在は戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。

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